松竹伸幸(ジャーナリスト、編集者)

 11月23日に期限を迎える日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をめぐって、メディアの事前報道が過熱した。率直に言わせてもらえば、なぜ大騒ぎをするのか、全く理解できないほどの過熱ぶりであった。それだけのエネルギーがあるのなら、もっと大事なことを論じてほしかったというのが、私の率直な思いである。

 北朝鮮が度重なるミサイル実験を通じ、ミサイル技術を向上させているのは事実である。軍事面において、日本と韓国が関連情報を直接やり取りできるGSOMIAによって、ミサイルに関する情報を素早く正確に共有できることも確かであろう。だから、協定延長に意味がないとまでは言わない。

 さらに言えば、ひたすら非難の応酬になっている現在の日韓関係を見れば、何か一つでも両国が合意に達することがあれば、少しはホッとできるという要素があるかもしれない。その合意に、長期的な視点では問題があるとしても、一息ついている間に、本筋の徴用工問題などで対話をする雰囲気が醸成されることを期待する向きもあるかもしれない。

 しかし、軍事的な正解が、必ずしも政治的にも正解だとは限らない。また、GSOMIAがこれほど問題になる背景にあるのは、そもそも日米韓関係の実体が政治面でゆがんでいることにある。

 その実体面での関係を正常化させる努力はしないまま、GSOMIAだけを何とかしようとしても、手術が求められる患部を放置したまま、湿布で痛みを緩和して済ませるようなものであり、患者の容体が深刻化するだけだ。議論が過熱する背景にある日米韓関係の歪みこそ正されるべきではないか。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言を見ていると、果たしてどういう日米韓関係を望んでいるのか、さっぱり分からない。ご自分も分かっていないのではないか、とさえ感じる。

 そもそも、GSOMIAを必要だと思っているのかどうか。日本による輸出管理の強化措置を踏まえ破棄を決定したことは、それが冷静な判断ではなく激情に駆られたものとはいえ、絶対に必要だというほどの思い入れはないのだろう。

 しかも、韓国国民の多数がGSOMIAの破棄を支持しており、市民運動に依拠して誕生し、政権運営をしてきた文大統領も、本音はそこにあるのかもしれない。
ソウルの韓国国防省前でGSOMIA破棄を訴える市民団体メンバーら=2019年11月15日(聯合=共同)
ソウルの韓国国防省前でGSOMIA破棄を訴える市民団体メンバーら=2019年11月15日(聯合=共同)
 一方で、韓国側から聞こえてくるのは、日本が輸出管理の強化を撤回すれば、GSOMIAを失効させることはしないということであった。ということは、GSOMIAが、別の何かと引き替えできる程度の軽い気持ちから破棄が決められたものだとしても、本当は存在していた方がいいというのが、文大統領の本音なのだろうか。

 文大統領が目指しているのは、まずは北朝鮮の非核化を実現し、さらには南北統一を実現することだ。しかも、それを平和的な話し合いで成し遂げようとしているはずだ。