木村三浩(一水会代表) 

 「イラクでこんなに民衆が殺されているのに日本のメディアが報じないのはなぜなんだ。米国ですら報じているのに、日本のメディアはおかしいよ」
 
 そんな憤りの電話が、友人の在日イラク人、マフムード氏からモスクワでの会議に出席していた私にかかってきた。

 実際、私のところには他のイラクの友人から現地で広範に行われているデモのユーチューブ映像が何回も送られてきている。それには人々が銃撃されている衝撃的なシーンが流れている。こんなに酷いのか、と言葉を失った。

 マフムードは続ける。「これらデモの目的は、イランに支配され、国民を顧みないイラク政府の腐り切った体質を刷新することにある。政府の腐敗、つまりは賄賂の横行、国家予算の私的流用、議会選挙の運営の不公正さ、選挙管理委員会の中立性、若者の失業、公共サービスの欠如など、政治を糾(ただ)すためにデモが行われている。まさに悪政との闘いなんだ」と。

 たしかに、2009年6月に米国が撤退した後、表面化していなかったイランのコントロールが強化され、イラク国民の利益を奪っていった。当初こそ、イラクのシーア派もイランに対して親和性を持っていたが、アラブとペルシャの違いや、強権的な体質に反発を強めていった。今回、イラク国内で広がっているデモによる殺傷者が続出しているが、これはイランに忠誠を誓うイラク人ミリシア(民兵)が行っているとされる。

 ユーチューブのデモ映像には、これまでイラク国民を大きく分けてきた「シーア派、スンニ派という宗派間の立場を超えて、この傀儡(かいらい)政府に対抗している」といったコメントが寄せられている。

 この政府の腐敗と闘うデモは10月1日より首都バグダッドを中心に始まり、瞬く間にシーア派の多い南部のナジャフ、カルバラ、バスラなどに波及し、大きな抗議行動となっていった。

 これは、イラクの愛国・自衛の闘いといってよい。これに対して、イランの傀儡となったイラク政府側は、「議会選挙を公正にやる」「改善する」など、単に事態の沈静化を目的にした、いい加減な言葉で応じるのみであった。それでも、こうした政府の言葉をいったんは聞き入れてデモは収束、鎮静化していったが、政府発足の一周年を機にデモは再燃した。

 このデモが起きた段階で約160人が催涙ガス、銃器などで殺害され、重傷を含め5千人以上が負傷した。そして政府の口約束が一向に果たされないことに業を煮やしたデモが10月25日ごろから再開し始める。この動きは、バグダッド、さらには南部地域にあっという間に波及していったが、デモの要求に対して何ら誠意ある回答を示さず、いたずらに政権運営を繰り返す政府は、今日までの間に300人以上のイラク人を殺害し、1万5千人以上の負傷者を出している。
イラクの首都バグダットで、負傷したデモ参加者を運ぶ男性=2019年10月2日(ロイター=共同)
イラクの首都バグダットで、負傷したデモ参加者を運ぶ男性=2019年10月2日(ロイター=共同)
 このデモに参加する年齢構成は12歳から60歳ぐらいまでと広い。学生や失業者、弁護士、教師などの人々が参加している。1カ月半の間にすでに300人以上が殺害され、1万5千人以上が負傷しているにもかかわらず、事態は収束へと向かうどころか、文字通り命を懸けて悪政を打ち倒すデモとなってしまっている。