吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が、来年の民主党大統領候補選びに名乗りを上げたことを受け、ワシントンでは困惑が広がっている。それは彼の出馬に刺激されて、先の大統領選挙で出馬したヒラリー・クリントン氏も再び立候補する可能性が出てきたからだ。そしてこれは、全世界にとって悪夢の始まりといっても過言ではないだろう。

 まず、ブルームバーグ氏が出馬に名乗りを上げた理由は、以下のような背景があったと思われる。

 ①民主党の候補者選びが混戦している。
 ②2020年はスーパー・チューズデー(予備選挙及び党員集会)が前倒しになり、特に500人の代議員を持つ大票田のカリフォルニアの予備選挙が3月初旬に行われる。
 ③党則の改正により、予備選挙の結果に左右されない特別代議員は、予備選挙で過半数の代議員を取った候補者がいなかった場合にのみ、党大会で投票できることとなった。


 こうした背景から、ブルームバーグ氏は、スーパー・チューズデーで大勝利して多くの代議員を得た上で、夏の党大会で特別代議員を説得して過半数を確保し、大統領候補になる戦略のようだ。そのため初戦で勢いを付けるために重要と言われるアイオワ、ニューハンプシャーなどでは、党員集会や予備選挙を戦わない方針だ。これらの州は最初に予備選挙などが行われるため候補者の勢いが重視されるが、人口の少ない地方の州なので代議員数は多くはないからだ。

 ただ、このブルームバーク氏の戦略には、いくつもの問題がある。第一に、カリフォルニアなどでは黒人も多く、オバマ前大統領の後継者と思われているバイデン前副大統領が有利だ。ブルームバーグ氏はニューヨーク市長時代に、日本の警察官職務執行法と似た条例を制定し、黒人差別的と批判された。他にも最低賃金の引き上げなどにも反対していたことなど、黒人票は期待できない。

 第二に、2008年に弁護士で元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏(共和党)が、アイオワやニューハンプシャーなどを無視し、大票田のフロリダに賭ける戦略を取り、失敗している。この年、彼は共和党内で有力視されていた。

 第三に、90年代以降、選挙の年の前年秋になって立候補を表明した人は、党内で有力だったにもかかわらず、誰も大統領候補になれなかった。
 
 これら以外にも問題がある。著名な世論調査会社「Five Thirty Eight」(ファイブサーティエイト)が2019年初めに作成したグラフがあるが、縦軸が(ネット)好感度を、横軸が民主党的な価値観を表しており、これに2020年の民主党大統領選挙に立候補しそうな人をあてはめてみると、他の立候補予定者が45度線に近い場所にいるのに対し、ブルームバーグ氏は右に外れた場所にいる。

 また、ハフィントンポストが10月初旬に行った世論調査では、民主党支持者の83%が、現状の候補者に満足している。そのためか、FOXが11月3日に発表した世論調査では、ブルームバーグ氏が立候補した場合、必ず投票すると答えた人は6%しかいなかった。「考慮する」を入れても38%にとどまった。
前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏(共同)
前ニューヨーク市長のブルームバーグ氏(共同)
 ただ、今年1月段階に行われた複数の世論調査では、ブルームバーグ氏の支持率は平均して3%しかなかった。つまり、直近では倍になっており、その理由は主要候補の混戦にあるとみられる。ブルームバーグ氏は、ここに勝機を見いだしたのだろう。また、別の著名な世論調査機関「Real Clear Politics」(リアルクリアポリティクス)の調査では、ウクライナ疑惑の影響で40%以上あったバイデン氏の支持率が25%まで低下し、ウオーレン上院議員に一瞬でも抜かれたのも大きいと言われる。