余談だが、候補者選びのディベートを繰り返す度に、バイデン氏の「物忘れ」の酷さが明確になり、7月には支持率が25%にまで落ちていた(その後、一時30%台まで回復し、ウクライナ疑惑が小康状態になった後も30%台に戻ってはいる)。この7月の時点でトランプ氏がバイデン氏に脅威を感じていたからといって、リスクの高いことをするとは思えない。大統領として当然のことだが、自国の有力政治家の裏マネー疑惑解明が目的だったと考えてよいだろう。

 いずれにしてもブルームバーグ氏は、ウオーレン氏が主張する富裕層増税は、米国の経済活力を減退させるとして反対してきた。同様に経済活力向上のため、銀行業務への規制にも反対している。また、ユダヤ系であるため中東情勢に関しては共和党以上にタカ派だ。この辺がブルームバーグ氏を、民主党の中では「右」に位置付けている理由だろう。

 ただ、彼は銃規制や地球温暖化対策に関しては、非常な積極論者である。しかし、銃規制や温暖化対策に積極的な民主党の若手のホープが2人も候補者選びから脱落している。それを考えてもブルームバーグ氏が大統領候補になるのは容易ではない。ちなみにブルームバーグ、バイデン、ウオーレンそしてトランプ各氏は、70歳代半ばで、高齢だ。彼ら自身が米国での団塊世代であり、その世代の支持が中心と言われている。民主党の若手のホープたちは、いま20代くらいのミレニアム世代の支持が多い。

 だが、米国でも白人は少子化が進んでおり、移民によって若年人口が増えているように見えるに過ぎない。そのため、ミレニアム世代の政治的ニーズは非常に複雑で、それを二大政党が吸収できなくなっている。ミレニアム世代の棄権率は、非常に高い。

 実際、若手のホープで最も支持の高い候補者でも支持率は10%未満だ。だが、逆に見ると、従来の二大政党とは異なる政策の組合せを行う候補者が現れれば、その人物が非常に有利になる可能性もある。ただ、トランプ氏については、選挙の前年に作成された好感度と党の政策との一致度を表したグラフで、45度線から外れていたにもかかわらず、当選した。彼の支持者は中高年の貧しい白人が多かったとされているが、若者同様に政治的ニーズが複雑化していたとも考えられる。

 今の米国は税制、規制、銃問題、環境問題などにおいて、今までと同じ政策パッケージでは、国民の複雑化したニーズに応えられなくなっている。それを理解した上で、2020年の大統領選挙だけではなく、これからの米国の政治全般を予測し、そして日米関係に関する戦略を練ることが、今後の日本にとって重要になる。

 そのためには、ファイブサーティエイトのグラフのような分析の中で、45度線から外れた候補者でも注目し、その人物の当選に備え、あるいは主張している政策パッケージを分析することが重要だ。このような考え方を2016年当時からしていれば、多くの日本の有力な政府機関や大企業などが、トランプ氏当選を予測し、それに備えた政策を準備しておくこともできたかもしれない。

 ちなみに私は2016年の大統領選挙の直後に、ニューヨークとワシントンを取材して回ったが、その際、日本の有力な政府機関や大企業の関係者から「トランプ氏が当選すると思っていなかったので、彼とパイプがなくて困っている」と相談されたことが何度もあった。

 こうした米国民の政治的ニーズの複雑化にブルームバーグ氏も活路を見いだしたのだろう。だが、彼にとって強大なライバルになり得る人物がいる。その人物こそ、冒頭で触れたヒラリー氏だ。FOXの世論調査では、ヒラリー氏が立候補した場合、確実に投票する人と回答したのは27%で、「考慮する」まで含めると65%を超え、ブルームバーグ氏を大きく引き離した。
政治集会で演説するヒラリー・クリントン氏=2016年11月、オハイオ州クリーブランド
政治集会で演説するヒラリー・クリントン氏=2016年11月、オハイオ州クリーブランド
 ヒラリー氏であれば今からでも巨額の資金を集めることが可能だ。2016年の組織を復活させれば、組織力についても問題はない。彼女は米国の公共放送PBSの番組で、意欲満々とも受け取れる発言をしている。ブルームバーグ氏と同様のことを、彼女も考えたのかもしれない。