2019年11月27日 15:10 公開

ジェニファー・スコット、政治記者

総選挙前にどれほど世論調査を繰り返しても、実際の投票結果がどうなるかは分からない。

激戦区で議席を争う候補者は特に、投票当日に最大のプレッシャーに直面することになる。

大物議員になればなるほど、議席を失って翌朝のニュースのトップを飾りたくないというプレッシャーは強いはずだ。

過去のイギリスの総選挙では、1997年に保守党の閣僚マイケル・ポーティロ氏が、2015年には労働党の影の閣僚エド・ボールズ氏が、こうした憂き目にあっている。

自分の名前を冠した歴史的な番狂わせなど、誰も経験したくない。しかし、12月12日の総選挙でそうなりかねない大物議員は、果たして誰だろう?

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激戦区という言葉の伝統的な意味は、前回選挙の10%以下の票差で勝敗が決まった議席のことだ。

この理屈で言うと、イギリス全土で激戦区とされる選挙区は169カ所ある。しかしますます不安定になるイギリス政界では、たとえ前回は大勝したとしても、場合によっては安心できない。

ジョンソン首相はどうか

ボリス・ジョンソン首相は2017年の前回選挙で、アックスブリッジおよびライスリップ・サウス選挙区の議席を10.8%の僅差で守った。

これを首相経験者の前回結果と比べてみよう。ゴードン・ブラウン氏は50.2%、テリーザ・メイ氏は45.5%、トニー・ブレア氏は44.5%、デイヴィッド・キャメロン氏は43%だ。

今回の選挙最大の大波乱になり得ると言われている理由が、この数字からも明らかだ。

アックスブリッジ選挙区では2017年の選挙で、13%の票が労働党に流れた。そして現在、労働党を含めた野党各党が、ジョンソン首相を落選させようと強力に活動している。

ジョンソン政権の閣僚も、多くが接戦を繰り広げることになりそうだ。

リッチモンド・パーク選挙区のザック・ゴールドスミス環境担当閣外相は、前回選挙でわずか45票差で議席を獲得した。前回選挙と比べると0.1%の差だ。

テリーザ・ヴィラーズ環境相(チッピング・バーネット選出)も、353票差(0.6%)で議席を確保している。

このほか、ロバート・バックランド法相(スウィンドン・サウス選出、4.8%)、アロク・シャルマ国際開発相(レディング・ウェスト選出、5.6%)、ジェイク・ベリー閣外担当相(ロッセンダールおよびダーウェン選出、6.4%)、マーク・スペンサー院内幹事長(シャーウッド選出、9.7%)の4人が激戦区で戦う。

閣僚以外の保守党大物議員では、アラン・ケアンズ前ウェールズ相(ヴァール・オブ・グラモーガン選出)は前回選挙で2190票差(4.1%)で議席を守った。欧州連合(EU)離脱派で党首経験のあるイアン・ダンカン=スミス議員(クリングフォードおよびウッドフォード・グリーン選出)も5.2%だった。

保守党として当選したものの、EU離脱に反対し離党したアナ・スーブリー議員(ブロックストウ選出)は、前回選挙で8563票差(1.6%)の辛勝だった。スーブリー議員は現在、新党「変化のための独立グループ(IGC)」の代表を務めている。

労働党はやや安泰?

最大野党・労働党の大物議員にも目を向けてみよう。

保守党に比べると、労働党の有力議員の議席はより確定的に思える。しかし、投票日には何が起こるか分からない。

ジェレミー・コービン党首のイズリントン・ノース選挙区を見てみよう。2017年の前回選挙でコービン党首は3万3000票、60.5%の差で議席を確保している。

ジョン・マクドネル影の財務相(ヘイズおよびハーリントン選出)も、1万8000票差(37.9%)と安定していた。

しかし労働党にもやはり、激戦区で議席を争う影の閣僚や大物議員がいる。

レズリー・アード影のスコットランド相(カーカルディーおよびカウデンビース選出)はわずか259票差(0.6%)で、スー・ヘイマン影の環境相(ワーキントン選出)は3925票差(9.4%)でそれぞれ議席を得た。

労働党の大ベテランで「ボルソーヴァーの獣」の異名をとるデニス・スキナー議員(ボルソーヴァー選出)は前回、11.4%の差で議席を維持した。それだけに今回は、保守党が攻勢をかけている。

また、エマ・デント=コード議員(ケンジントン選出、0.1%)やロージー・ダフィールド議員(カンターベリー、0.3%)といった激戦区の平議員も、同じようなプレッシャーを感じているだろう。

党首から最年少議員まで

他の野党はどうだろうか。

自由民主党では、ティム・ファロン前党首(1.5%)のウェストモーランドおよびロンズデール選挙区と、副党首のサー・エド・デイヴィー議員(6.4%)のキングストンおよびサービトン選挙区が激戦区となっている。

ジョー・スウィンソン党首(ダンバートンシャー・イースト選出)は前回、5339票差(10.3%)で当選した。基準となる10%以上の差ではあるものの、投票当日は気が気でないだろう。

スコットランド国民党(SNP)では、ジョアナ・チェリー議員(エディンバラ・サウス・ウェスト選出、2.2%)が激戦区にいる。チェリー議員は9月、ジョンソン政権による議会閉会についてスコットランドの法廷に判断を仰ぎ、閉会をとりやめさせた中心人物だ。

また、下院最年少のマイリ・ブラック議員(ペイズリーおよびレンフルーシャー・サウス選出)も、前回の票差は2541票(6.1%)だった。

最後に挙げるのは、北アイルランドの民主統一党(DUP)の下院代表、ナイジェル・ドッズ議員(ベルファスト・ノース選出)だ。DUPはメイ前政権およびジョンソン政権と、ブレグジット(イギリスのEU離脱)交渉で重要な役目を果たしてきた。

しかし、2081票差(4.5%)という激戦区でドッズ議員が議席を失えば、北アイルランドには激震が走るだろう。


<解説>ロス・ホーキンス政治担当編集委員

今回の総選挙において、野党にとっての夢の結果はこうだ。「投票から一夜明けて、ボリス・ジョンソンはもはや下院議員ですらありません」と。

ジョンソン氏打倒を目指す活動家は、何百人もの支持者がこぞって協力していると話す。アックスブリッジ選挙区の若年層や人種的マイノリティーの有権者が、勝敗のバランスを覆すと期待している。

首相を落選させるという野望に、希望以上の実現可能性はあるのだろうか?

全国的なデータを基にした推計によると、一部の閣僚は苦戦を強いられるが、ジョンソン首相自身は票差を伸ばして勝利するとみられている。もうすぐ発表される別の推計でも、似たような結果が出ている。

しかし、これは飽くまで「推計」だ。このところ、政界予想をなりわいにする人たちは、前にも増して慎重になっている。

もしも、保守党が選挙に勝っても、首相が落選したら。何がどうなるのか。

イギリスでは、上下院の議員でない人物が首相を務めた例が過去にある。

ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドンのロバート・ヘイゼル教授によると、1960年代のアレック・ダグラス=ヒューム首相(保守党)は、上院議員としての地位を捨て、補欠選挙で下院議員に当選するまでの間も、首相でい続けた。

そのため、たとえジョンソン氏が落選しても、保守党基盤で楽勝した保守党議員を辞めさせた上で、自分はその選挙区から補欠選挙で復帰をねらえるはずだと、ヘイゼル教授は言う。

野党の夢が実現したとしても、ジョンソン首相の政治生命がただちに絶たれるわけではなさそうだ。


(英語記事 The big names facing a nervy election night