小倉正男(ジャーナリスト)

 11月22日午後6時、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の「終了通告の効力を停止する」と発表した。日韓のGSOMIAは23日午前0時に失効期限が迫っていただけに、兆候はいくつかあったが、まさかのドタン場での転換である。

 金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長は、「いつでも効力を終了させることができるという前提で8月23日の終了通告を停止させることにした。日本政府はこれについて理解を示した」とGSOMIA延長を告げた。

 心中はあくまで見せない硬い表情で、金第1次長は文書を読み上げた。だが、韓国政府としては「負け惜しみ」の会見というか、ほぼ「全面降伏」に近い内容と言えるのではないか。「いつでも効力を終了させることができる」という前提条件をわざわざ冒頭に語らなければならなかったところに苦しさがにじみ出ている。

 「われわれは日本に二度と負けない」。文大統領は8月、日本が下した「ホワイト国」除外の決定を受けてこう檄を飛ばしていた。それだけに、過激な「反日」発言に連動して日本商品不買・日本旅行忌避といった運動を国民にあおってきた文大統領の中核的支持層は、ハシゴを外された格好だ。「二度と負けない」、あの言葉は何だったのか。支持層が呆然としたのは無理もない。

 一方、この情報が流れると、GSOMIA終了を見越して売り込まれて安値となっていた韓国通貨ウォンが慌ただしく急上昇をみせた。
※写真はイメージ(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージ(ゲッティイメージズ)
 通貨というものは、通貨を発行している国家の信用や安全性によって価値が日々変動するものである。通貨の価値変動は、その国家の「格付け」のようなものだ。しかも、株式も同様だが、通貨のマーケットは、本来政府権力などに容易にコントロールされにくい性格を持っている。

 資本、あるいはおカネといってもよいが、その国家が危ないとみれば株式を売る、通貨を売るということに遠慮や躊躇(ちゅうちょ)はない。通貨を売ってドルに替える、ゴールド(金)に替える、安全資産に逃げる、そうしたことが即刻行われる。その極端なケースが「通貨危機」である。それを防止するために外貨準備がなされているのだが、いったん通貨危機に火が付けば、外貨準備などすぐに底をつくことになりかねない。

 GSOMIA延長決定の背景として考えられるのは、ウォンの通貨不安、通貨危機の一種の分岐点だった可能性がある。最近の文大統領の政策への不安から、資本、おカネは韓国からとうとうと逃げ出す動きが続いてきた。