2019年12月10日 16:51 公開

米連邦捜査局(FBI)が2016年米大統領選のトランプ陣営を捜査したことについて、司法省監察総監室は9日、政治的偏向を示す証拠はないと結論する報告書を発表した。

476ページに及ぶ司法省監察総監室の報告書は、トランプ陣営への捜査に着手したFBIは「正当な承認を得た目的」があったと結論している。その一方で、当時大統領候補だったドナルド・トランプ氏の側近の通話を傍受するための申請には「相当に不正確もしくは不十分な記載」があったと指摘した。

司法省のマイケル・ホロウィッツ監察総監は、トランプ陣営とロシア当局との間に結託があったのかFBIが捜査した「クロスファイヤ・ハリケーン作戦」が、どのように始まったのか、その経緯を調べた。昨年3月に調査を開始し、100万点以上の記録を精査し、170回以上の聞き取り調査を重ねた。

選挙中にトランプ氏の外交顧問だったカーター・ペイジ氏に対するFBIの監視行為が正当なものだったかが、調査の焦点のひとつだった。

大統領選中のトランプ陣営捜査を指揮したジェイムズ・コーミーFBI長官が2017年5月にトランプ氏に電撃解任された後、司法省が任命したロバート・ムラー元FBI長官が特別検察官となり、この捜査を継続した。ムラー氏は今年春に2年近い捜査を終えて報告書を提出。「ロシアの選挙介入行動において、トランプ陣営の関係者がロシア政府と共謀もしくは連携したという事実を確定しなかった」と結論した。一方で、大統領による司法妨害については、「大統領の行動と意図について得た証拠から我々は、犯罪行為はなかったと決定的に断定することができない」と判断を保留した。

FBIの正確性に問題

ホロウィッツ氏は報告書で、FBIが外国諜報活動偵察法(FISA)にもとづき、カーター・ペイジ氏の通話傍受令状をFISA裁判所に申請した際、17件の「相当に不正確もしくは不十分な記載」があったと特定した。盗聴を正当化する「相当な理由」が実際よりも強力であるかのようにみせた令状申請が、複数あったという。

監察総監室はさらに、ロシアによる大統領選介入疑惑を担当していたFBIの法務担当が、同僚が中央情報局(CIA)から受け取ったメールを改ざんし、これがペイジ氏に対する監視令状の申請に資料として使われたと指摘した。FISA裁判所に盗聴令状を申請する際に提出する情報は「非の打ち所なく正確」でなくてはならないというFBIの方針に、FBI職員の行動が「遠く及ばない」ことがあったという。

「基本的で根本的な間違いがあまりに散見されるため(中略)FBIの指揮系統がFISA手続きをどのように管理監督していたのか、重大な疑問だった」と、監察総監室は指摘した。

政治的偏向はなく

その一方で監察総監室は、トランプ氏に対する政治的偏向と敵対心がFBIの捜査に影響していたという、保守派の主張を裏づけるものは見つからなかったと結論した。

「4件の個別捜査が始まったが、その判断に何らかの政治的偏向や不適切な動機が影響したという証拠は、文書の形でも証言の形でも見つからなかった」と報告書は書いている。

ホロウィッツ監察総監はさらに、捜査令状を申請する際のFBIのミスが意図的なものだったという証拠も見つからなかったと説明。トランプ陣営に対する捜査着手は「司法省とFBIの方針に沿った」ものだったという。

FBIが匿名情報提供者を活用したのも、FBIの規則に抵触していないと監察総監は指摘した。

「スティール文書」は

監察総監室は、いわゆる「スティール文書」に関するFBIの説明の仕方にも問題があったと指摘した。スティール文書とは、英情報部(MI6)出身のクリストファー・スティール氏がトランプ氏についてまとめた文書。ロシア当局が秘密の情報を握っているなど、その多くは裏付けのない内容で、ヒラリー・クリントン民主党候補(当時)などトランプ氏の政敵たちが弁護士事務所を通じて依頼した調査によるものだった。

ホロウィッツ監察総監は、FBIがこのスティール文書について「重要性を過大に強調した」と批判した。さらに、スティール氏の情報源の1人についてスティール氏自身が「自慢したがり」で「何かと話を大げさにしたがる」人物だと評していたことなど、重要な関連情報をFBIが省力していたと指摘した。

監察総監室の報告書によると、CIAはスティール文書を「インターネットのうわさ」に過ぎないと判断していた。しかし、トランプ氏に電撃解任されたジェイムズ・コーミー前FBI長官やアンドリュー・マケイブ副長官(当時、後に長官代行)は、スティール文書を無視するべきではないと主張していたという。

FBI職員は偏向していたのか

トランプ氏やその支持者たちはしばしば、いわゆる「ディープ・ステイト(国家の中の国家、闇の政府、などの意味)」が存在し、トランプ政権を妨害しようと謀略を繰り広げているのだと主張する。しかし、監察総監室の報告書は、FBIにはトランプ氏当選を歓迎する職員が複数いたことを明記している。

報告書によると、1人のFBI捜査官は「選挙結果に大喜び」しているとメッセージを送り、選挙速報を「まるでスーパーボウルの大逆転劇みたいだ」と喜んでいた。

別の捜査官は選挙の翌朝、「トランプ!」と書いたメッセージを同僚に送った。同僚はこれに「ははは」と返事し、捜査官は「(笑)」と返している。

トランプ氏はこれまでしばしば、FBIのベテラン捜査官だったピーター・ストローク氏と不倫関係にあった同僚のリサ・ペイジ弁護士との間のメールを、FBIの偏向の証拠として取り上げている。両氏のメールは監察総監室の調査で浮上したもので、「当時のトランプ候補に対する敵対心」を示す内容だったと報告書は書いている。

ストローク氏は2016年米大統領選に対するロシア介入疑惑などの捜査に携わっていたが、昨年8月に解雇された。リサ・ペイジ氏はマケイブ副長官(当時)の法務顧問だった。大統領選中にメールでペイジ氏が「(トランプ氏は)絶対に大統領にならないはず。でしょ? でしょ!?」と書き、これにストローク氏は「ならない。ならないよ。僕たちが止める」と返事するなどしていたことが、与党・共和党の激しい反発を招いた。

しかし、監察総監室は報告書で、ストローク捜査官やペイジ弁護士による捜査活動が、自分たちの政治的意見に影響されていたと示す証拠は見つからなかったと書いている。

「ひどい話だ」とトランプ氏

トランプ大統領は9日、ホワイトハウスで記者団を前に、監察総監室の報告書の内容について「まったくひどい話だ」と批判。「(選挙を)ひっくり返そうという動きがあり、大勢が参加していて、つかまったんだ」と述べた。

司法省トップのウィリアム・バー司法長官は、FBIがトランプ陣営に対する捜査に着手するだけの証拠は十分にあったという報告書の主な内容を、受け入れなかった。

バー長官は、自分が所管するFBIによる捜査は、「まったく覚束ない疑い」を根拠に始まったもので、「その後の措置を正当化するには不十分な根拠だったと私は思う」と批判した。

FBIとロバート・ムラー特別検察官によるロシア疑惑捜査がそもそもなぜ始まったのか、その経緯を捜査するためにバー長官が自ら任命したジョン・ダラム連邦検事は、ホロウィッツ監察総監の結論の中には同意しないものもあると話した。

一方で、野党・民主党は、トランプ氏が再三繰り返す自分は「魔女狩り」の被害者だという主張を、今回の報告書は否定したと受け止めている。

民主党のマーク・ワーナー上院議員はツイッターで、「魔女狩りなどなかった。連邦捜査機関の職員が自分たちの仕事をしていただけだ」と書いた。

(英語記事 'No political bias' in FBI probe of Trump campaign