2019年12月11日 1:23 公開

米連邦議会下院で多数を占める野党・民主党は10日朝、ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾条項2項目を発表した。権力乱用と議会妨害でトランプ氏を弾劾する決議案を、近く下院司法委員会で審議する。弾劾決議案が司法委を経て、下院本会議で可決された場合、与党・共和党が多数を占める上院が弾劾裁判を開く。

下院でトランプ氏に対する弾劾調査を進めてきた、ジェロルド・ナドラー司法委員長(民主党)は、トランプ氏が2020年米大統領選に介入するようウクライナ政府に圧力をかけたことは、「国益を無視し、もしくは国益を傷つけながら、不当な個人的利益を得るため」に行った大統領権限の乱用だと言明した。

さらにナドラー委員長は2つ目の弾劾条項として、トランプ氏が一貫して下院の弾劾調査を妨害してきたと指摘。個人的利益のため政敵への捜査をウクライナに働きかけたことが「ばれて、下院が弾劾調査を開始すると、トランプ大統領は前例がないほど全面的かつ一貫して、弾劾調査に抗ってきた」ため、これが議会妨害にあたると述べた。

ナドラー委員長はトランプ氏が「自分は法の上に立つと思っている」と批判し、「はっきりさせなくてはならない。誰だろうと、たとえ大統領だろうと、法の上に立つ者などいない」と強調した。

下院情報委員会のアダム・シフ委員長は続いて、なぜ来年の大統領選を待たずに弾劾手続きを進めるのかについて、トランプ氏を放置すればまさに来年の大統領選に再び外国の介入を招き、選挙の公平性が損なわれる恐れがあるからだと、危機感を示した。

下院では、司法委員会が弾劾決議案を今週中にも可決し、下院本会議に上程する可能性が高い。下院本会議が弾劾を可決した場合、共和党が多数を占める上院は来年1月初めにも弾劾裁判を開始する見通しとなっている。

トランプ氏の反論

トランプ氏は一貫して弾劾調査を「狂気の沙汰」の「魔女狩り」などと呼び、自分は「何も悪いことはしていない」と主張してきた。

この日の弾劾条項発表の後にもツイッターで、「ナドラーはたった今、僕が2020年選挙に介入するようウクライナに圧力をかけたと言った。馬鹿げている。そんなことはなかったと、ナドラーは知っている。ウクライナの大統領も外務大臣も『圧力はなかった』と何度も繰り返している。ナドラーと民主はそれを知りながら、認めようとしない!」と強く反発した。

下院司法委員会の公聴会で、共和党側の専門家証人として証言したジョナサン・ターリー・ジョージワシントン大学教授は、BBCに対して、「こうした弾劾に相当する問題行動の法的根拠が問題なのではなく、証拠となる記録が問題だ」と話した。

「事実関係の記録はいまだに不完全で矛盾している。民主党は訴追内容の証拠固めをするより、ともかくクリスマスまでに弾劾するのだと、一点張りで主張してきた。最も性急な調査と最も薄弱な証拠で、現代史上最も範囲の狭い弾劾を通そうとしている」

トランプ氏の問題行動とは

下院民主党による弾劾調査は、情報機関の匿名告発者が今年9月に、トランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告したことを機に始まった

ホワイトハウスが公表した通話記録によると、トランプ氏は7月25日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話で、来年の大統領選で対立候補になるかもしれない民主党のジョー・バイデン前副大統領とその息子について捜査するよう働きかけていた。

民主党が進めた調査で複数の関係者が証言したところによると、トランプ氏は政敵に対する捜査要求と引き換えに、すでに米議会が承認していたウクライナへの軍事援助4億ドルの再開を提示したほか、ホワイトハウスでの首脳会談の実現を提示したとされている。

ロシアとの対立が続くウクライナはアメリカにとって重要な同盟国。そういう相手にトランプ氏が個人的利益のために圧力をかけたのは大統領権限の乱用だと、民主党は主張している。

トランプ氏はウクライナ政府に対して、バイデン親子の汚職疑惑を捜査するよう働きかけたほか、2016年米大統領選に介入したのはロシアではなくウクライナだという陰謀論を認めるよう要求したとされる。バイデン親子の汚職疑惑はウクライナ当局によって否定されている。ウクライナの選挙介入説は複数の米情報機関が一致して否定し、2016年選挙に介入したのはロシアだと断定している。


<解説> ジョン・ソープルBBC北米編集長

こうなるのは分かっていた。ここ数カ月というもの、私はひたすら弾劾のことばかり報じてきたような気がする。ほかに話題はほとんどなかった。

しかし、下院司法委員会の委員長が、憲法上の表現を使って「重罪と軽罪」で弾劾すると発表するのを聞いたときは、やはり否応なしに鳥肌が立った。いくら最近の政治が日常的に激しく騒がしいものだと言っても、これは決して日常的な出来事ではあり得ない。

もしも下院がドナルド・J・トランプ大統領の弾劾を可決するなら、それは1868年のアンドリュー・ジョンソン元大統領と1998年のビル・クリントン元大統領以来のことだ。アメリカ独立以降このような形で処罰される、実に3人目の大統領ということになる。

しかし、そういうことは歴史書に任せておけばいい。大事なのは次がどうなるかだ。再選を目指すトランプ氏にとってこれは大打撃となるのか、それともアメリカ国民は自分たちの大統領が政敵に襲われていると受け止めるのか。

弾劾条項を発表した民主党は、合衆国憲法を守ることの重要性を強調した。しかし、それを鵜呑みにしてはならない。生々しい政治的計算も働いているからだ。


弾劾手続きとは

合衆国憲法第2条第4節は、「大統領並びに副大統領、文官は国家反逆罪をはじめ収賄、重犯罪や軽罪により弾劾訴追され有罪判決が下れば、解任される」と規定している。

弾劾訴追権は下院が、弾劾裁判権は上院がそれぞれ持つ。

下院でこの弾劾決議案を可決した後、上院が弾劾裁判を行う。上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領を解任できる。

現在の下院では、定数435議席のうち民主党が235議席を占めているため、弾劾訴追が成立する可能性は高い。

一方の上院は、定数100議席のうち共和党が53議席を占める。解任の動議成立に必要な3分の2以上の賛成票を得るには、多数の共和党議員が造反する必要があるため、大統領が実際に解任される見通しは少ない。

政府と共和党は、弾劾裁判は最長2週間とするよう求めている。

過去の大統領で弾劾されたのは、アンドリュー・ジョンソン第17代大統領とビル・クリントン第42代大統領のみだが、上院の弾劾裁判が有罪を認めなかったため、いずれも解任はされていない。

リチャード・ニクソン第37代大統領は弾劾・解任される可能性が高まったため、下院司法委の弾劾調査開始から3カ月後に、下院本会議の採決を待たずに辞任した。

(英語記事 Trump impeachment: Democrats unveil formal charges