2019年12月11日 15:33 公開

BBCリアリティーチェック(ファクトチェック)チーム、BBCモニタリング

12日の総選挙を目前に、英国民保健サービス(NHS)の状態が最重要課題に躍り出た。1枚の写真によって。そして、選挙最終盤に各地を遊説するボリス・ジョンソン英首相にとって、この写真を見ようとしなかったことが話題になった9日は、大変な1日となった。それとともに、この写真を「やらせ」だと言う同じ内容の投稿が、複数のソーシャルメディアで拡散された。

今月初めに英イングランド北部リーズの総合病院に救急車で運ばれた4歳のジャックちゃんは、肺炎の疑いがあったが、医師の診察を受けるまでの間、ベッドが足りず4時間も床に寝かされていた。

病院はすでにジャックちゃんの家族に謝罪しており、医療部長のイヴェット・オアデ医師は、「非常に大勢」が救急外来を受診しに集まっていたため、ベッドをジャックちゃんに提供できなかったことを「本当に申し訳ない」とコメントしている。

しかしながら、病院がこうして声明を出しているにもかかわらず、この写真は「やらせ」だという投稿がソーシャルメディアに出回り始めた。いったい出どころはどこなのか。

ジャックちゃんの写真は最初に、地元紙ヨークシャー・イヴニング・ポストと英紙ミラーの一面に掲載された。撮影したのはジャックちゃんの母親だ。

母親のサラさんによると、救急外来に着いてすぐジャックちゃんはベッドに寝かされ酸素吸入の処置が始まった。しかし、数時間後にはベッドはほかの患者に必要で、ジャックちゃんは4時間以上、ベッドに寝ることができなかった。

そこでサラさんは床に数着のコートを敷き、息子を横にならせて、写真を撮った。

ミラー紙に掲載されたこの写真を、民放ITVの記者が9日、スマートフォンでジョンソン首相に見せようとしたところ、首相はなかなか写真を見ようとせず、NHS対策の重要性を繰り返しながら、記者のスマートフォンを自分のポケットに入れた。記者に指摘されて首相は電話を返したが、ジョンソン首相の一連の対応は英国内で厳しく批判された

ITV記者がツイートしたジョンソン氏とのやりとりの動画は、11日までに1130万回以上再生されている。

やらせ写真だというデマ投稿

ITV記者とジョンソン首相のやりとりから間もなく、ジャックちゃんの写真は母親によるやらせだと主張する投稿がフェイスブックに上がった。リーズ病院の看護師をしている「親しい友達」から聞いた話だとして、男児は実は担架に横になっていたのに、母親が床に寝させてこの写真を撮り、男児はまた担架に横になったのだという内容だ。

投稿は続けて、男児は20分待っただけで診察してもらったし、「自分も看護師なのでこういうフェイクニュースには本当に腹が立つ、確かにNHSはひどいことになってるけど、それはもっぱら悪用する人たちがいるからなのと、高齢者ケアが足りないから。悪口ばっかり言うんじゃなくて、がんばっている看護師や医師のことを考えてあげて。またしてもプロパガンダ話が話題になった。みっともない」などと書いている。

これが最初にフェイスブックに投稿されたのはおそらく、12月9日の午後6時半(日本時間10日午前3時半)ごろだ。少なくとも2万回はシェアされたこの投稿は、今では削除されている。

BBC報道番組「ニュースナイト」はこの投稿をしたアカウントの持ち主に取材をした。アカウント主は匿名希望の50代女性で、実際はリーズ総合病院で看護師をしている親しい友達はいないのだという。

アカウント主の女性によると、9日午後に古い同級生だと名乗る人が「友達」申請をしてきた。その人に覚えはなかったものの、申請に応じて、その人のフェイスブック・ページを見に行った。

そこで病院についての投稿を目にしたため、コピーペーストして自分のアカウントから投稿した。するとたちまち広まり拡散されたため、自分は仕組まれた何かにひっかかったのではないかと疑い始めた。この女性はその後、複数のソーシャルメディアに持っていたアカウントを削除した。

このフェイスブック投稿と同じ文章の投稿が数時間の内に、ツイッターにも登場し始めた。

保守系英紙デイリー・テレグラムのコラムニスト、アリソン・ピアソン氏や保守党のマイケル・ファブリカント下院議員が、同じ内容をツイッターで広めたのを機に、ツイッターでも勢いを増して拡散するようになった。

ピアソン氏は「床に寝た子供の写真がなぜ『100%フェイク』か、小児科看護師たちから詳細に解説してもらった。水曜日にテレグラフに書く。やらせ写真を撮る。義憤を巻き起こす。写真を疑う人たちを、思いやりが足りないと非難する。ひどい」とツイート。これを、ファブリカント議員がリツイートした。


フェイスブック社は後に、「自分の知り合いの看護師が……」という投稿は、ファクトチェック組織「フルファクト」によって事実ではないという評価を得たため、今後はそのように読者に注意喚起すると述べた。

「今でも共有されているのなら、利用者のフィードのずっと下の方にしか出ないし、その場合も『ニセ情報』と灰色で上に表示され、フルファクトの説明へのリンクが貼られている」と同社は説明した。

ベッドはあったというデマも

別のフェイスブック投稿は、写真で男児の隣にあるものはベッドなので、写真はやらせだと主張した。しかし、病院はジャックちゃんの家族への謝罪で、ベッドはなかったと言明している。

「処置室には椅子しかなくて、ベッドがありませんでした。本当にごめんなさい」と病院は述べている。

ベッドはあったという説は最初に、フェイスブック上のブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)支持グループに投稿され、同様のアカウントが次々にシェアした。やがて、同じ内容がツイッターにも登場した。

さらに別のツイートは、自分はかつて小児科の救急外来や小児集中治療室の看護師だったという前置きと共に、ジャックちゃんが使っている酸素マスクの種類から、そのマスクがそれほど膨らむほどの酸素が必要だったなら呼吸を観察する必要があるし、カニューレを入れて頭を起こしてるはず」と書いている。複数のアカウントがこれと同じ文章の内容をツイートしたり、リツイートしたりした。

デイリー・メールのピアソン記者にこの内容をツイートした「@PickleBertie」というアカウントは、すでに削除されている。しかし、アーカイブ保存された過去のツイートを見ると、誰のものか分からない犬と英国旗のストック写真のような写真など、匿名性が非常に高い内容の投稿内容で、名前などの個人情報もなく、他のソーシャルメディア・アカウントへのリンクもない。

(英語記事 General election 2019: The misinformation war over the boy in the hospital