谷本真由美(コンサルタント兼著述家)

 イギリスの総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる保守党が1987年以来最大の勝利、労働党は1935年以来最悪の敗北となりましたが、これは私の予想通りです。

 今回の選挙の論点は「EU離脱」の一本です。国立病院をどうするとか、移民をどうするかという話もありましたが、有権者的には「とりあえずどうにかしやがれこの野郎、俺らもう飽きたんだよ」です。

 なぜ有権者がこんなにイライラしているかというと、EU離脱を決めた国民投票から早くも3年近くたち、イギリスが本当に離脱するのか、一向にまとまらず、イライラしている人があまりにも多いからです。

 先行きが分からないので不動産価格は下がってますし、買い控えも広がっていて経済は様子見。しかしイギリス経済自体の調子は悪くはなく、離脱の優柔不断が足を引っ張っているのが明らかだからです。

 ところで日本のメディアは視点がずれまくっていて、論点が「ポピュリストであるジョンソンの人柄」みたいになってますけどね、これ大間違い。

 ジョンソン首相は元々オスマン帝国(現在のトルコ)の革命戦士系の家柄で、政治家や外交官だらけのエリート金持ち出身。20人の歴代首相を輩出する超有名私立のイートン校で最優秀学生、オックスフォード大では古代ギリシャ語やラテン語をやってた超スーパーエリートなんですよ。オックスフォードでも古典やるのって超優秀中の優秀の人だけ。

 この人ね、頭がいいからわざと簡単な言葉を使って見た目も偽装してるんですよ。ただのポピュリストじゃないし、トランプおっさんともN国の立花孝志とも大違いですからね。日本のメディアは分かってないけど。

 ちなみにイギリスの有権者はジョンソンが何者かみんな知ってるんですよ。あの髪型もだらしない服の意味もね。

 EU離脱が争点だった今回の選挙における各政党の主張を超雑にまとめてみましょう。

保守党「さっさと離脱すんぞ、俺がEUのクソは恫喝(どうかつ)してなんとかしてやるぜ! 移民は来んじゃねえぞ、特に貧民! 金持ち偉い! 金儲け応援すんぞ! 減税すんぞ! ユダヤは万歳! ハマス(イスラム原理主義組織)はクソ! 公務員はクソ! 何でも民間でやれ! ストやってんじゃねえ!! 資本主義はいいぞ!」

労働党「離脱やめだがやり方シラネ! 移民無制限、貧民はじゃんじゃん来てくれ! 金持ちクソ! 金持ちクソ! 金もうけクソ! 増税すんぞこの野郎! ユダヤはクソ! ハマスはカッケー! 公務員は一律給料増やすぞ! 国営化しまくってやる!! ストは好き放題やれな!! 共産主義はいいぞ!」

自由民主党「人間殺して環境保護! グレタ(環境活動家)最高!! 離脱やめだがやり方シラネ! 移民無制限、貧民はじゃんじゃん来てくれ! 金持ちクソ! 金持ちクソ! 金儲けクソ! 増税すんぞこの野郎!」

スコットランド国民党「スコットランド独立! イングランドはクソ! 離脱やめだがやり方シラネ!」

離脱党「やり方知らんけど離脱したい」

その他「とりあえず離脱やめい」

 結果は想像するまでもありませんね。全盛期のアントニオ猪木をしのぐこの保守党の男気。俺がなんとかしてやるぜ。ドスを抱えた高倉健さんであります。

 一方で世田谷自然左翼(左翼富裕層)が持ち上げまくっていた労働党でありますが、経済問題でイライラしている有権者が保守党に逃げてしまうのは見るからに明らかですね。

 しかも元々熱心な支援者であったユダヤ人を思いっきりディスりまくっており、今回の選挙ではロンドンの選挙区のいくつかでは、ユダヤ人候補者が警備員をつけないと動き回れないという状態になってしまっております。

 イギリスの世田谷自然左翼の皆さまは多様性うんぬんみたいなことを言っているのですが、ユダヤ人に対しては保護しなくてもいいという考え方のようであります。
英下院総選挙で大勝し、首相官邸前でポーズをとるジョンソン首相=ロンドン(ロイター=共同)
英下院総選挙で大勝し、首相官邸前でポーズをとるジョンソン首相=ロンドン(ロイター=共同)
 そういうわけで、今回の選挙では、「レッドウオール」(赤い壁)と呼ばれる元々労働党が強い北部の元炭鉱地帯とか、貧民地帯の有権者が保守党に寝返るという現象が起こり、労働党が大敗したわけです。例えば北部の元炭鉱地帯ブライズバレーで保守党が圧勝するのはなんと1950年以来初めてであります。