重村智計(東京通信大教授)

 北朝鮮問題を考える基本は、何が起きても驚かないことにある。そうして、朝鮮半島で戦闘が起きる可能性や日本を攻撃する可能性はまずないと判断した上で、万が一の事態に対応しておくことだ。

 政府も報道機関も世論や国民の不安を煽るべきではない。米朝の交渉関係者によれば、北朝鮮の狙いはズバリ米朝首脳会談にある。

 北朝鮮の朴正天(パク・チョンチョン)朝鮮人民軍総参謀長は12月14日に談話を発表し、7日と13日夜に北西部、東倉里(トンチャンリ)の「西海(ヘソ)衛星発射場」で「重大な実験を行った」とした上で、「戦略兵器開発にそのまま適用されるであろう」と述べた。さらに「対話にも対決にも不慣れであってはならない」と国民に訴えた。この談話は、米朝対話への意向を強調している、と読むべきである。

 また、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に直接触れてはいない。ところが、日米韓のメディアは「北朝鮮がICBM実験準備か」などと報じ、日本を飛び越えてミサイルを発射することなどを予測し、まんまと北朝鮮のシナリオに乗せられてしまった。

 北朝鮮が「発射する」「核実験する」と一言も言っていないのに、勝手にメディアが報じる。まるで「振り込め誘導」や反社会的勢力の脅しに似た「詐欺的手口」だ。

 ことの始まりは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「年末までの回答」を米国に求めた発言だった。それに対し、米国のトランプ大統領が正恩氏を再び「ロケットマン」と揶揄(やゆ)し、さらに「米軍を使いたくないが、必要ならば使う」と言及した。

 要するに、北朝鮮に強硬な行動に踏み切らせないための「脅しのシグナル」だったわけだ。既に北朝鮮の強硬策への転換を示唆する情報を米国は得ていたという。
2017年9月、国連総会で演説するトランプ米大統領。状況次第で「完全に破壊する」と北朝鮮を威嚇した(AP=共同)
2017年9月、国連総会で演説するトランプ米大統領。状況次第で「完全に破壊する」と北朝鮮を威嚇した(AP=共同)
 トランプ氏が意図的にこうした発言をしたのならなかなかの策士といえるだろう。しかし、ただの受けを狙った発言なら、北朝鮮の政治文化に無知だったというしかない。

 米国人はいまだ北朝鮮の政治文化を理解できていない。北朝鮮でも韓国でも、政治行動の基準が「忠誠競争」と「メンツ」であるのは明らかだ。