2019年12月19日 11:00 公開

米下院(定数435)本会議は18日、ドナルド・トランプ大統領による権力乱用と議会妨害について弾劾条項2項目を、いずれも可決した。大統領による権力乱用は230対197で、議会妨害は229対198で、それぞれ必要な過半数票を得た。現在の下院議員435人のうち、野党・民主党の議員は233人、与党・共和党は197人。トランプ大統領はアメリカ史上、下院に弾劾される3人目の大統領となった。

今後は、下院が弾劾決議を上院に送付後、共和党が多数を占める上院が弾劾裁判を開く。上院が大統領を罷免するには3分の2以上の賛成が必要なため、トランプ氏は留任するものとみられている。

ほとんどの議員が党に沿って投票したものの、権力乱用では1人、議会妨害では3人の民主党議員が造反した。

また、民主党のタルシ・ガバード下院議員(ハワイ選出)は両条項で、賛成にも反対にも票を入れない「Present(出席)」に票を投じた。

ガバード議員は現在、来年の大統領選に向けた民主党候補選に出馬している。ガバード氏は声明で、「トランプ大統領は犯罪を犯していると思うので、弾劾に反対することは良心が許さなかった。一方で、アメリカを分断する敵意にあおられた党派対立の集大成として現職の大統領を排除すべきではないと考え、良心から弾劾を支持できなかった」と説明した。

世論調査によると、国内の意見は弾劾について割れている。政治情報サイト「FiveThirtyEight」がまとめた各種世論調査の平均によると、47%が弾劾を支持し、46.4%が反対している。

「倫理的な勇気」

野党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長は閉会後の記者会見で、「下院の民主党議員の倫理的な勇気を誇りに思い、感銘を受けている」と語った。

また、弾劾が可決されたことで「私たちの民主主義が、社会が、子どもたちの大志が守られた」と述べた。

弾劾調査を進めてきた司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長(民主党)は、トランプ大統領の行動は疑いようもなく弾劾されるべきものだと強調した。

「私たちはきょう、大統領が我々の自由かつ公正な選挙に及ぼした深刻かつ明白な危険と権力の分裂に対抗した」

「大統領が独裁者になるのを許してはならない」

トランプ大統領の反応


トランプ大統領はこの日、ミシガン州での支持者集会に出席していた。

投票の結果を聞いたトランプ氏は集会で、「共和党議員は全員が我々に票を入れた。すごい!(中略)共和党の票はひとつも失くさず、民主党からは3票を得た」と述べた。

「共和党がこれほど侮辱されたことはなかった。しかし、今の我々ほど団結したこともなかった」

「私は犯罪を犯していないのに弾劾された初めての人物だ。これは簡易版の弾劾だ」

「リチャード・ニクソンについては、とても暗い時代だったと思っている。あなたのことは知らないが、私は素晴らしい時代を過ごしている。すごいことだ」

また、民主党が「弾劾手続きの品位を落としている」と批判した。

「大統領になった誰もが電話を受ける。そして弾劾される。これは建国の父たちが最も求めていないことだ」

その上で、来年11月の大統領選ではアメリカ全土が「投票にやって来て、ペロシを議会からたたき出すんだ」と述べた。

今後の予定は?

下院が弾劾条項を上院に提出した場合、上院は日曜日を除いて毎日、最終決定が出るまでこの条項について裁判を続けなくてはならない。

民主党のチャック・シューマー上院院内総務はすでに暫定的な行程表を発表している。それによると年明けから審理を始め、全体で126時間かかる予定。

  • 2019年12月18日:下院が弾劾決議を可決
  • 2020年1月6日:上院での弾劾裁判が開始される。審理に際するガイドラインなどが最終決定されるのもこの日
  • 1月7日:上院議員が陪審員として宣誓する。また、ジョン・ロバーツ最高裁判所首席判事も上院で宣誓する
  • 1月9日:下院の検察担当者とホワイトハウスの弁護担当者による議論が始まる。それぞれ24時間が与えられる

裁判は数週間続く見込みだが、期間はまだ分からない。民主党は、来年2月に始まる同党の大統領候補選前にすべてを終わらせたい考えだ。

与野党の対立鮮明

下院本会議では約8時間の審議で、弾劾調査を進めた司法委員会と情報委員会のそれぞれの委員長と筆頭委員が先頭に立ち、共和党と野党・民主党の議員たちが次々にそれぞれの党派に沿って、「憲法を守らなくてはならない」、「法の上に立つ者などいない」、「選挙に外国の介入を招き続けるなど認められない」、「これはでっちあげだ」、「トランプ外しの結論ありきだ」、「大統領は弾劾相当のことは何もしていない」など繰り返した。

トランプ氏について下院で多数を占める民主党は、来年の大統領選で対立候補になるかもしれないジョー・バイデン前副大統領とその息子について、軍事援助凍結解除などを取引材料にウクライナに汚職捜査をさせようと働きかけたのは、大統領が自分の個人的利益のため外国の選挙介入を求め、国の安全保障を損なったとして、これは「権力乱用」にあたると判断した。さらに、ウクライナへの働きかけについて下院が調査を始めると、これに抵抗したのは「議会妨害」にあたると判断。2つを弾劾条項として、弾劾訴追の決議案を本会議に上程し、本会議がいずれも過半数票で可決した。

「民主主義の脅威」「選挙の代わりに弾劾」

審議の冒頭で、ペロシ下院議長は、大統領の「無謀な行動」がこのような弾劾に至ってしまったのは「悲劇だ」と述べた上で、議会としては「ほかに選択肢がなかった」と強調した。

「この国の安全保障にとって、この国の選挙の完全性にとって、この国の民主主義の根幹にとって、大統領は今も今後も脅威であり続ける」とペロシ氏は述べた。


これに対して、共和党議員は次々と反発。弾劾調査を進めた司法委員会のダグ・コリンズ筆頭委員(ジョージア州選出)は、トランプ氏は「何も間違ったことはしていない」と述べ、民主党は来年の大統領選でトランプ氏と戦うのが怖いから、弾劾しようとしているだけだと批判し、「アメリカ国民はお見通しだ」と強調した。

共和党のバリー・ラウダーミルク議員(ジョージア州選出)は、「この大統領を裁く民主党よりも、(イエス・キリストを裁いた)ポンテオ・ピラトの方がまだイエスに権利を認めた」と述べた。


共和党のルイ・ゴーマート議員(テキサス州選出)は、民主党が弾劾を推進するのは「2016年大統領選へのウクライナ介入について司法省捜査を阻止するためだ」と発言。

ウクライナが2016年大統領選に介入したという証拠はなく、ロバート・ムラー特別検察官の調査はロシアによる介入があったと認定した。トランプ大統領と共和党はこの結論を認めていない。

ゴーマート議員の発言後、弾劾調査を進めた司法委員会のジェロルド・ナドラー委員長は、「下院議員がこの下院の本会議場でロシア政府のプロパガンダを流布するなど、非常に憂慮される事態だ」と反論。するとゴーマート議員は、ナドラー委員長に向かって発言を撤回するよう声を荒げた。

調査を進めた情報委員会のアダム・シフ委員長(民主党)は採決直前の総括で、共和党は「大統領がウクライナに何をしても構わないと言っているようだ、大統領が民主主義や憲法や議会を無視しても構わないと言っているようだ」と批判。「いつかあなたたちがまた野党になった時も、大統領が議会などどうでもいいと言ったらどう反応するのか」と問いただした。

上院の弾劾裁判へ

憲法の規定に沿って、下院の弾劾を受けて、上院は弾劾裁判を開き、大統領が罷免に相当するかを判断する。下院と異なり共和党が多数を占める上院では、共和党幹部のミッチ・マコネル院内総務がすでに、自分は中立ではないと述べ、ホワイトハウスと連携して速やかに大統領を無罪にするつもりだと表明している。

一方で、民主党のチャック・シューマー上院院内総務は、「弾劾決議が上院に送られて来たら、上院議員一人ひとりが宣誓して『公平な正義』を実行する。上院が公正で正直な裁判を開き、すべての事実が公表されるのを保証するのは最も大事なことだ」と話した。

議会周辺では、上院の共和党から公平な裁判の遂行を確保するため、ペロシ下院議長が弾劾決議の上院上程をいったん保留するかもしれないという観測が広まっている。

上院の弾劾裁判で罷免された大統領は、過去に誰もいない。

1868年に下院で弾劾されたアンドリュー・ジョンソン元大統領と、1998年に弾劾されたビル・クリントン元大統領は、共に上院が罷免を認めなかった。

リチャード・ニクソン元大統領はウォーターゲート事件を受けて1974年8月、下院司法委員会が弾劾条項を可決した後、下院本会議の採決を前に辞任した。


(英語記事 Trump impeachment