
2019年12月19日 11:39 公開
ヘレン・ブリッグス、BBCニュース
これが、6000年前にスカンジナヴィア地方で暮らしていた女性の顔だ。
彼女が古代の「チューインガム」に歯形を残してくれたおかげで、科学者たちはDNAを手に入れ、遺伝情報を解読することができた。
人骨以外から古代人の完全なゲノム(全遺伝情報)が抽出されたのは、これが初めてだと科学者たちは話す。
樹木の「やに」の塊から
彼女は肌と髪の毛が濃い色をし、目は青色だった可能性が高い。
コペンハーゲン大学のハンネス・シュローダー博士は、「チューインガム」(実際には樹木の「やに」)は、死体が残っていない古代人のDNAを入手するうえで、非常に価値が高いと話す。
「骨以外のものから完全な古代人のゲノムを手に入れたのは驚くべきことだ」
女性についてわかっていること
科学者たちはこの女性のゲノムを解読し、どのような外見だったかを探った。
女性は遺伝的には、スカンジナヴィア中央部で当時暮らしていた人たちより、ヨーロッパ本土の狩猟採取民に近いとされた。
また、それらの人々と同様、濃い色の肌、こげ茶色の髪、青い目という特徴をもっていたとされた。
氷河が溶けて後退した後にヨーロッパ西部から来た、移住者たちの子孫である可能性が高いという。
どうやって暮らしていた?
他のDNAからは、バルト海にあるデンマークのロラン島シルトルムの生活がうかがえる。ヘーゼルナッツとマガモのDNAの痕跡も見つかっており、当時の人たちがそれらを食べていたことがわかる。
「ここはデンマークにおける石器時代の最大の遺跡。考古学上の発見からは、この場所に住んでいた人たちが野生資源を大いに活用し、それは農業と家畜が最初にスカンジナヴィア南部に伝えられた新石器時代まで続いたことがうかがえる」
コペンハーゲン大学のティース・イェンセン氏は、そう話す。
科学者たちは、「チューインガム」に閉じ込められていた微生物からもDNAを抽出した。腺熱や肺炎の原因となる病原菌のほか、口内にもともと存在するが病気を引き起こさない数多くのウイルスやバクテリアも発見したという。
DNAはカバノキの樹皮を熱することでできるカバノキの「やに」の、黒茶色のかたまりに付着していた。やには当時、石の道具を接着するために使われていた。
歯形が残っていたことからは、当時の人がやにを噛んでいた様子がうかがえる。やにを変形しやすくするためか、歯痛などの痛みを和らげるために噛んでいた可能性がある。
科学者たちは、こうして保存された情報からは、祖先やその生活ぶり、健康状態などの情報が得られ、当時の人々の暮らしをうかがうことができるとしている。
病原菌の進化も
チューインガムから抽出したDNAからは、人間の病原菌が長年にわたってどのように進化してきたかを突き止めることもできる。
「これらのタイプの古代の病原菌のゲノムを、こうした素材から回復できるのはとても興奮する。それらがどう進化し、現在のものとどう違うのか、研究することができるからだ」と、シュローダー氏はBBCに話した。
「それらがどう広がり、どう進化したのか、私たちに示してくれる」
この研究は、科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載されている。