山本みずき(iRONNA特別編集長)

 私は今秋、ロシア極東の港湾都市、ウラジオストクを訪れた。そして向かったのは北朝鮮の国営レストラン。だが、食事をするのが目的ではなく、他に理由があったからだ。

 ロシアはこれまで数多くの北朝鮮出稼ぎ労働者を受け入れてきた。特に北朝鮮と地理的に隣接するウラジオストクなどのロシア極東地域には、外貨獲得を目的とした北朝鮮労働者が多数いる。

 こうした中、国連安全保障理事会は2017年、核やミサイル開発を続ける北朝鮮への制裁強化決議を採択し、2年以内に全ての北朝鮮労働者を本国へ送還するよう義務付けた。ロシアもこの制裁措置に署名しており、北朝鮮労働者を期限である12月22日までに本国に送還することが命じられている。すでにこのとき、期限までおよそ3カ月に迫っていた。

 制裁が厳しさを増す中、私は北朝鮮労働者たちの生の声を聞くことができないだろうか、と考えたのだ。ただ、北朝鮮労働者は皆、党から付与されたバッジを胸につけ、特定の宿舎での生活が義務付けられている。さらに街中で外国人と自由に接触したり、話したりすることは禁止されているという。

 ただ、北朝鮮が経営するレストランは、外国人と接触することができる数少ない場所で、外国の情報を取ることのできる貴重な場でもあるそうだ。私がレストランに向かった理由は、もうお分かりだろう。

 そもそもウラジオストクに北朝鮮の国営レストランは3つあり、このうち最も客入りがよいという「平壌(ピョンヤン)」を選んだ。

 不自然なぐらい派手な色合いのネオンで装飾された外観に圧倒されながら店内に足を踏み入れると、女性店員が席まで案内してくれた。店員はすべて北朝鮮労働者だが、男性店員は一人も見当たらない。
北朝鮮国営レストラン「平壌」=2019年9月、ウラジオストク(筆者撮影)
北朝鮮国営レストラン「平壌」=2019年9月、ウラジオストク(筆者撮影)
 女性店員は誰もが色っぽく仕草がしとやかで、聡明(そうめい)な顔つき。店の奥は壁で仕切られていてのぞくことはできなかったが、大切な客が来ていたのだろうか、女性店員らが甲高い声を上げて場を盛り上げ、まるでキャバクラを想起させるような雰囲気が漂っていた。

 当然だが、この店も彼女たち出稼ぎ労働者も、北朝鮮にとっては外貨を獲得するための貴重な存在だ。核・ミサイル開発を続け、拉致問題も未解決の現状で、わずかであっても私が店を利用することで貢献してしまうことは、はばかられた。

 ゆえにお腹は空いていたが食欲を我慢し、共に訪れた友人と冷麺をシェアすることにした。冷麺の中に入っていたキムチが辛く、どんどん喉も渇いてきたが、最初に注文したペットボトルの水を2人で分け、それがなくなった後はひたすら我慢。ほんの数百円程度なので何の意味があるのかも分からないが、これはもう「心情」の問題である。