なんとか目的を達成するべく、女性店員との会話を試みたが、オーダーを取るときでさえ、朝鮮語以外は使わない。本来なら、北朝鮮から送り込まれた人材が言語教育を受けていないはずがない。それに、このレストランは外国人の客から会話を盗み聞くことのできる数少ない場所の一つだ。恐らくは朝鮮語以外を話せない「ふり」をしているだけなのだろう。予想通りだが、ガードは固かった。

 北朝鮮労働者の生の声を聞くことはできなかったが、北朝鮮という国家に忠実に従う人々の一端を垣間見ることができた。

 冒頭でも触れたが、本国への送還期限が迫り、ウラジオストクの北朝鮮労働者たちは慌ただしさを増していた。平壌-ウラジオストク間の航空便は従来、北朝鮮国営の高麗航空が週2回往復するのみだったが、臨時便を週8往復させ平日は毎日運航していた。このように駆け込みで北朝鮮労働者は次々と本国に送り返されている。

 現地の人によれば、ウラジオストクでは北朝鮮労働者らの存在は日常的だったが、ロシアが対北朝鮮制裁に加わって以来、めっきり見かけなくなったという。ただ、北朝鮮にとって外貨獲得は非常に重要だ。私たちが訪れたレストランの女性店員らが、送還期限直前にもかかわらず店に立ち続けていた姿が印象深かった。

 このように、制裁の厳しさを増す北朝鮮だが、現在外交関係を有している国家は162カ国と意外に多い。北朝鮮は従来、「善隣友好外交」を掲げ、主に旧東側諸国および非同盟諸国との外交活動を展開してきたが、2000年に入り、英独をはじめとして多くの西側諸国との外交関係を樹立した。ただ、それは主に北朝鮮が核兵器不拡散条約(NPT)を脱退する前の時期だ。

 そして12月22日、外貨獲得手段の一つである出稼ぎ労働者の送還期限を迎え、さらなる経済的打撃が見込まれる。国際社会から孤立していく北朝鮮は、この難局をどのように乗り越えていくのか、今後の動向が注目される。
北朝鮮の国営レストラン「平壌」で働く女性=2019年9月、ウラジオストク(筆者撮影)
北朝鮮の国営レストラン「平壌」で働く女性=2019年9月、ウラジオストク(筆者撮影)
 ところで、モスクワから遠く離れたウラジオストクだが、その名称は「ウラジ(влади)」「ヴォストーク(восток)」から成っており、「ヴォストーク」は「東」を意味し、「ヴラジ-」は「領有・支配する、物件を自由に使う、制御する」を意味する動詞「владеть(ヴラヂェーチ)」からきている。

 つまりウラジオストクとは「東方を支配する町」を意味するロシアの戦略的要衝であるのだ。なぜモスクワから遠く離れた同市がロシアにとって重要な地域であるのか。一つには北朝鮮を含む極東アジアの重要なアクターや国家と距離が近いことが挙げられるが、プーチン政権においてウラジオストクはロシア史の転換期を象徴するような、戦略的要衝としての意義を強めている。その点については次回、掘り下げたい。