櫻田淳(東洋学園大現代経営学部教授)

 イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率いるカセム・ソレイマニ司令官が米軍部隊の攻撃によって殺害された一件を前にして、中東情勢の一層の緊迫を懸念する声が高まっている。

 確かにイラン国内では、「英雄」として語られたソレイマニ司令官が殺害されたことは激しい反発を生じさせている。同国の最高指導者、アリ・ハメネイ師は早速「激しい報復」を宣言し、モハマド・ジャバド・ザリフ外相も「米国はならず者的な冒険主義がもたらすあらゆる結果の責任を負う」と警告した。

 また、1月4日の朝日新聞によれば、マジド・タフテ・ラバンチ国連大使は、米CNNテレビとのインタビューの中で、「われわれは目を閉じていられない。間違いなく報復する。厳しい報復だ」と語った上で、「軍事行動」に踏み切ると表明した。

 もっとも、ハメネイ師が宣言した「報復」にせよ、ラバンチ大使が表明した「軍事行動」にせよ、それが具体的に何を指しているのかは定かではない。それは、高々、イラクを含むイラン周辺に展開する米軍をターゲットにして何かをするというものでしかないのであろう。

 米国のドナルド・トランプ大統領は「戦争を招く行動は取っていない」と早々に表明したけれども、仮にイランが実際に「報復」の挙に出た場合には、イラン国内52地点を標的にして反撃すると語っている。事態のエスカレーションの鍵を握っているのは、イラン政治指導層だということになる。

 むしろ日本として注視すべきは、このイランを含む中東方面での緊張が、北朝鮮情勢を含む極東方面への対応にどのように跳ね返るかということである。

 北朝鮮は昨年末以来、大陸間弾道ミサイル(ICBM)・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射再開を匂わせつつ、対米挑発に走る兆しを示してきた。しかし、此度(このたび)の事態を前にして、米国が「泥沼に落ちる」展開を望んでいるはずである。

 米国の疲弊は、それ自体が北朝鮮に対する圧力の減殺を意味する。米国との「冷戦」が始まった中国にとっても、米国の疲弊が歓迎される事情は、同様であろう。
イラン・テヘランの橋に掲げられた最高指導者ハメネイ師(右)と殺害されたソレイマニ司令官の写真が使われた看板=2020年1月4日(共同)
イラン・テヘランの橋に掲げられた最高指導者ハメネイ師(右)と殺害されたソレイマニ司令官の写真が使われた看板=2020年1月4日(共同)
 米国といえども中東と極東の二つの方面で戦端を開くのは容易ではないという事実からは、そうした結論が導かれる。しかし、中国や北朝鮮の安全保障上の圧力に直接に曝(さら)される日本にとっては、中東方面での米国の疲弊は、全く歓迎できるものではない。