ゆえに、米政府が「そうは問屋が卸さない」という意識の下に中東方面での緊張をコントロールしようとする限りは、そうした緊張がほどほどに高まったとしても、それ自体は日本にとってネガティブなことにはならない。

 昨年10月のイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)最高指導者、アブバクル・バグダディ容疑者殺害の際にせよ、此度のソレイマニ司令官殺害の際にせよ、トランプ政権下の米軍が実行しているのは、個人をターゲットとして特定して「首を取る」という作戦である。こういう「斬首」作戦が次々に成功裏に実行されているという事実を適宜示すだけでも、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に対する牽制(けんせい)として十分に作用しよう。

 それでは、日本の対応はどのようなものであるべきか。参考になるのは英国の対応である。1月5日のNHKによれば、ベン・ウォレス国防相は米国のマーク・エスパー国防長官と意見を交わした際、英国の初期対応を示した。それは、次に挙げる三つを骨子とする。

(1)関係当事者全てに対して事態の沈静化を要求する。
(2)ソレイマニ司令官爆殺に絡む米国の立場に理解を表明する。
(3)ホルムズ海峡の「航行の自由」確保に向けた具体的な行動を取る。


 これらの三つの対応は、米国の同盟国としては、誠にふさわしい。米国の「武力の濫用(らんよう)」を非難した中国の王毅外相とザリフ外相の会談に示されるように、中露両国がイランの後ろ盾になろうとする動きが鮮明になっているのであれば、対米支持の旗幟(きし)を明らかにした英政府の判断は正しいと思われる。

 本来ならば、日本もまた、この英国の三つの対応と同じことをすべきである。けれども実際には、(3)の対応に踏み込むのはいろいろと制約があろう。

 昨年末、有志連合の枠組みを離れて決定された海上自衛隊の艦艇・哨戒機派遣は、「調査・研究」を目的にしているのである。そうであるならば、日本政府は最低限でも「ペルシャ湾やホルムズ海峡で『航行の自由』が脅かされる事態は、日本としては絶対に容認しない」と内外に宣明する必要がある。

 ペルシャ湾やホルムズ海峡は、日本が展開する「自由で開かれたインド・太平洋」構想で想定される圏域の西の突端(とったん)に位置するけれども、そこへの関与に際して日本が認定する「死活的な利害」が何であるかは、明示されるべきである。無論、(1)と(2)は自明の対応である。
首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)と安倍晋三首相=2019年12月20日、首相官邸(春名中撮影)
首脳会談に臨むイランのロウハニ大統領(左)と安倍晋三首相=2019年12月20日、首相官邸(春名中撮影)
 日本にとっては、今後の事態のエスカレーションによって米国が「泥沼に落ちる」光景を見たくないのは確かである。しかし、その一方で米国の安全保障上の影響力や意志を揺るがせる対応は、厳に慎むべきものである。

 このようにして、中東情勢と極東情勢は連関する。当節求められるのは、中東情勢の当座の推移に幻惑されずに、日本が最も優先すべき利害が奈辺にあるかを見極める議論であろう。