2020年01月06日 13:29 公開

イランは5日、2015年にアメリカなど国際社会と結んだ核合意に伴うウラン濃縮について、今後は制限を順守しないと宣言した。

イランはこの日の閣議で、核合意放棄の第5弾の措置を決定。濃縮ウランの濃度や貯蔵量、研究・開発に関する制限を順守しないとする声明を発表した。

「イランは今後、同国の技術的ニーズをもとに、制限なしに核濃縮を継続するだろう」

一方で、イランが実際に核合意を離脱するのかについては言及していない。

イランは声明で、国際原子力機関(IAEA)と引き続き協力していく意向を示している。また、アメリカが対イラン制裁を解除すれば核合意を順守する用意があるという。

BBCのジョナサン・マーカス防衛外交担当編集委員は、アメリカによる経済制裁下では、イランが石油による財源を確保できないということを示していると見ている。

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イラク・バグダッドで3日、イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官(62)が米軍の空爆によって死亡したことを受け、イラン国内は緊迫している。

バグダッドの報道によると、前日に続き5日夜にもバグダッドの米大使館を標的とした攻撃があった。ある情報筋はBBCに対し、同大使館の方角に向けて「間接照準射撃」が4度連続して発射されたと述べた。大使館に被害はなかったが、民間人数人が負傷したとの報道がある。

各国の反応

ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領、イギリスのボリス・ジョンソン首相は5日、イランに対し、核合意違反をやめるよう求める共同声明を発表した。

「我々には、同地域の緊張緩和と安定回復に寄与するために、あらゆる政府との協議を継続する用意がある」と、3首脳は呼びかけた。

共同声明に先立ちジョンソン首相は、「我々は(中略)我々全員の利益にとっての脅威だった」ソレイマニ司令官の死を「嘆き悲しんだりしない」と述べた。

ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表は、核合意と、ソレイマニ司令官殺害をめぐる危機の緩和方法について協議するため、イランのムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相をベルギー・ブリュッセルに招待している。

ソレイマニ司令官殺害をめぐる動き

ソレイマニ司令官の遺体は5日早朝、イラン南西部アフワズの空港に到着した。数千人のイラン国民が喪服姿で集まった。

イラン・イラク戦争での戦功でも国内で英雄視されていた司令官は7日、故郷のイラン中部ケルマンに埋葬されるという。

ソレイマニ司令官が死亡したイラクでは議会が5日、国内に駐留する外国部隊の撤退を求める決議を採択した。この決議に法的拘束力はない。

イラク国内には、アメリカが率いる国際有志連合による武装組織「イスラム国(IS)」掃討支援の一環として、米兵約5000人が駐留している。5日の決議直前、有志連合はイラク国内でのIS掃討作戦を一時中止した。

ドナルド・トランプ米大統領は、ソレイマニ司令官殺害にイランが報復すれば、米国は「迅速かつ完全にイランを攻撃する」と繰り返し警告している。

イランと核合意

イランはかねて、自分たちの核開発計画は完全に平和的だと主張してきた。しかし、核兵器開発に使用している疑いが浮上したことから、国連安全保障理事会やアメリカ、欧州連合(EU)は2010年にイランに対して経済制裁を科した。

2015年の核合意は、対イラン制裁を解除する見返りに、イランの核開発計画を検証可能なものにするというもの。

核合意では、原子炉燃料だけでなく核兵器にも使用される濃縮ウランについて、イラン国内での濃縮率を3.67%までに留めることで、イランと国連安全保障常任理事国の米国、英国、フランス、中国、ロシアにドイツを加えた6カ国で合意した。またイランは、兵器級プルトニウムが製造できないよう重水施設に変更を加えることや、国際機関の視察を受け入れることに同意した。

2015年6月以前には、イラン国内には大量の濃縮ウランが貯蔵されていたほか、2万近い遠心分離機が存在していた。これは、当時のホワイトハウスの発表によると、核爆弾8~10弾分を製造するには十分な量だった。

トランプ大統領は2018年5月、一方的に核合意を離脱した。トランプ氏は、イランの核開発計画に対して無期限の制限を課し、弾道ミサイル開発を中止するために、イランと新たな合意交渉をしたいとしてた。

しかしイランは米国側の求めを拒否。以降、核合意の履行を徐々に停止してきた。

<解説>核合意の意義いまこそ――ジョナサン・マーカスBBC防衛担当編集委員

イラン核合意は、トランプ米政権が2018年5月に離脱してからというもの、生命維持装置をつけてなんとか生きながらえている状態だった。しかし今や、危篤状態に陥ったのかもしれない。

トランプ大統領は2016年大統領選の最中、そして就任後も、前任のバラク・オバマ氏が合意した核合意を「悪い合意」だと常に批判し続けた。しかし、合意を締結したアメリカ以外のすべての国(イギリス、フランス、ロシア、中国、ドイツ、EU)は、この合意には今でもメリットがあると考えている。

包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれるこの合意は、イランの核開発計画を、一定期間ほとんど検証可能な形で制限した。しかし、その最大の意義は切迫する戦争の回避にあり、現在の危機下では特にその効力を発揮した。

核合意が締結される前は、イランの核開発活動をめぐる懸念が募っていたし、イスラエルが(あるいはイスラエルとアメリカが協力して)イラン国内の核施設を攻撃する可能性があった。それだけに、JCPOAの存在は現状できわめて重要な役割を果たしている。

アメリカが一方的に核合意を離脱して以降、イランはJCPOAの主な制約に違反を繰り返してきた。今では、すべての制約について順守を放棄しようとしているようだ。たとえば、ウランの濃縮率を20%に引き上げるだろうか。そうすればイランは、兵器級のウランをずっと早く手に入れられる。そしてイランは今後も、強化された国際査察を受け入れるだろうか。

我々はいま、トランプ政権が2018年5月にはっきり望んだ目的地にたどりついた。しかし、主要国はいずれも、イランの合意違反に心底不満を抱きつつも。ソレイマニ司令官殺害というトランプ氏の決定に衝撃を受けている。毀誉褒貶(きよほうへん)の多いこの決定は、アメリカとイランを再び戦争の瀬戸際に追い詰めてしまった。

(英語記事 Iran rolls back nuclear deal commitments