マイケル・カービー(元オーストラリア最高裁判事)

 法の目的とは、人を保護し、公正な原則に従って社会を成り立たせることにあります。こうした観点から見れば、日本の性同一性障害特例法は、人を保護せず、かつ不公正といえます。人に断種(生殖腺除去)を強制するこの仕組みを継続する何らの理由もなく、同法はただちに改正されるべきです。同法が改正されない限り、日本が他国の後塵を拝する状況は変わりません。

 日本が2004年に性別認定(戸籍上の性別変更)に関する法律を制定したことは、日本政府によるジェンダーとセクシュアリティの問題への対処をめぐる大きな転換点でした。

 確かに当時、ドイツやオランダ、私の母国のオーストラリアなど日本の主要な友好国や貿易相手国はすべて、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の法律上の性別を認める条件として断種を定めていました。

 その後、今挙げた各国政府はすべて、またアルゼンチンからネパールまで数十カ国の政府が、手術を法律上の性別認定の条件から外す法律を制定しました。こうした新たな法的体制のもとで、トランスジェンダーは生き生きと生活できるようになり、社会はトランスジェンダーというマイノリティ(少数者)グループに与えられた自由と尊敬の拡大によって利益を得ています。

 近年、世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)、健康と拷問に関する国連特別報告者、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの国際組織は、日本政府に対し、現行の戸籍上の性別の変更の手続きを改める必要があると指摘しています。
マイケル・カービー氏(斎藤浩一撮影)
マイケル・カービー氏(斎藤浩一撮影)
 世界保健機関(WHO)も、何人も法律で断種を強制・強要されるべきでないと、この立場を支持しています。東京レインボープライド共同代表理事でフェンシング元女子日本代表の杉山文野氏ら、日本のトランスジェンダー活動家たちは、今夏の東京五輪・パラリンピックが、日本の人権状況に注目を集めると指摘しています。そして性同一性障害特例法は、依然としてそこに影を落とすものなのです。

 数年前、私が香港で法律とトランスジェンダーに関する国連の専門家会議に出席したときのことです。主催者は風変わりなことをしました。政治家と人権専門家からなる会合に、ベルギーで最も権威のある外科医を招待したのです。