2020年01月10日 12:29 公開

岡崎 恵理、BBCニュース(東京)

アジア初開催となったラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は、ブレイヴ・ブラッサムズ(日本代表)が悲願の決勝トーナメント初進出を果たすなど、日本中を熱狂の渦に包んで幕を閉じた。

昨年12月11日に都内で行われた日本代表の感謝パレードでは、沿道にファン約5万人(主催の日本ラグビーフットボール協会発表)が詰め掛けた。大晦日にはNHK紅白歌合戦にゲスト審査員として登場したほか、お正月定番のCMに出演するなど、代表たちは年末年始もメディアに引っ張りだこだ。

ラグビーがマイナーなスポーツだった日本でこれほどまでに盛り上がるとは、誰が想像しただろうか。もちろん、強豪の南アフリカ代表相手に「史上最大の番狂わせ」と言われた勝利を収めた2015年大会も注目されたが、今回はそれをはるかに上回る勢いだった。

日本中が湧いたのは、単に日本代表の快進撃があったからだけではない。国籍も文化も違う、様々なルーツを持つ選手で構成された多様性豊かな日本代表が、「ONE TEAM」で日の丸を背負って戦う姿に、多くの人が感動したからだ。

しかし、今大会の開幕前や開幕直後は、少し様子が違った。「日本代表」に対する国内の受け止め方が、様々だったのだ。

「外国人」ばかりは日本代表じゃない?

ソーシャルネットワークには、好意的なコメントのほかに、「ラグビー代表って言ったって外人ばっかり」、「そんなので勝っても嬉しいのか?」、「違和感ある」などの声が上がった。

15人制ラグビーでは国の代表チームに入るための要件が、代表国の国籍を必要とする野球やサッカーと異なる。あまりなじみのないラグビーという競技の、そのなじみのない代表チームのルールに、違和感を持つ人が多かったのは事実だ。伝統的に自分たちを単一民族とみなしがちな日本では、特に無理もないことだった。

同じ肌の色に黒い髪、日本語を話し、同じ文化や慣習を持つ人こそが「本当の日本人」だと考え、それ以外の人には抵抗感を抱く。そういう人は一定数存在する。

もちろん、長年の「日本人とはこうしたもの」という感覚に、必ずしも悪意が伴っているわけではない。しかし、世界中で人種と人種の垣根が曖昧になりつつあるこの時代に、日本のグローバル化が進んでいるのは現実だ。その現実を前に、無理解のままでいることはできない。

今年9月には女性お笑いコンビのAマッソが、ハイチ人の父親と日本人の母親を持つテニスの大坂なおみ選手(22)に必要なものについて「漂白剤。あの人日焼けしすぎやろ」などと発言し、物議を醸した。

この発言から約1週間後、大坂選手は自分がブランドアンバサダーを務める資生堂「アネッサ」の商品を引き合いに、秀逸な切り返しを見せた。

「『日焼けしすぎ』って(笑)、びっくり。資生堂のアネッサ パーフェクトUVがあるから、私は絶対に日焼けしないのに、2人は全然知らなかったみたい(スマイル×3)」とツイートしたのだ

大坂選手をめぐっては、所属契約を結ぶ日清食品のPRアニメーションが実際よりも肌を白く描く騒動もあった。

この時の大坂選手は、「私の肌が褐色なのは明らかだ」とした上で、「日清食品側が意図的に『白人化』したとは考えていないが、今度また私を描いたりすることがあれば、その時は私に相談すべきだと思う」と話した。

日本代表としてプレーする大坂選手(10月に日本国籍の選択が報じられた)に対する「日焼けしすぎ」というAマッソの発言も、日清食品のアニメーションが肌の色を明るくしたのも、「日本人らしいイメージ」が基準としてあればこそだろう。

これに対して大坂選手は、ありのままの自分の姿こそ自分なのだと示してみせたのだ。

日本代表に「日本人らしさ」を求めるのは時代遅れ

世界中を人々が行き来し、海外移住者が増加する現代において、従来の「日本人のイメージ」に合う日本人や、「日本人らしい」日本代表を求めても、それは現実にそぐわなくなってきている。

バイレイシャル(二重人種)など混血の人口も増加しており、1つの「国」という枠組みに縛ること自体が難しくなりつつあるからだ。

厚生労働省のデータによると、2018年に日本国内で誕生した子供の数は91万8400人。そのうち、少なくとも両親のどちらかが外国籍の子供は1万7878人で、全体の1.9%ほどを占める。

今の日本には、両親共に日本ルーツのいわゆる「日本人」、外国ルーツを持つ日本国籍の人、外国籍で日本生まれ日本育ちの人、外国出身で日本で生活する人など、多種多様な人が溢れている。

そうした中に、ラグビー日本代表の外国出身選手も含まれる。

国際統括団体ワールドラグビーは、「その国・地域で出生」、「両親か祖父母の1人がその国・地域で出生」あるいは「3年以上継続してその国・地域に居住」(2020年12月31日からは5年に変更)のいずれかの条件を満たす者が代表資格を持つと定めている。

ラグビーの代表資格の規定は、実に現代社会に見合ったもので、日本代表チームは今の日本社会の多様性を象徴していると言える。

ちなみに現在の規定では、1つの国・地域を代表した選手は、違う国・地域の代表にはなれない。外国出身選手は、並々ならぬ覚悟を持って日本代表になると決断したのだろう。

多様性で力が何倍にも

高みを目指す人が、最高峰の舞台に立つチャンスをつかみたいと思うのは自然なことだろう。

2002年にイラン・テヘランから来日し、現在は日本国籍を持つ石野シャハランさん(39)は、日本人と外国人が共に働きやすい環境づくりなどを提案するコンサルティング会社を経営している。石野さんはBBCの取材に対して、外国出身選手が自分の目的のために日本を選ぶことは理解できると話す。

「基本的に誰でも自分の目的のために移動します。特に21世紀ですし。(中略)奨学金をもらって学校に通うとか、一旗上げたいとか。(ラグビー選手にとっては)それが日本代表だったのかもしれない」と、石野さんは私に話してくれた。

その上で石野さんは、多様なバックグラウンドを持つ人が集まれば、これまで以上の力を発揮することができると強調する。

「(ラグビーの戦術で)どうしたらいいのかを考えて、たとえば日本生まれの人、外国ルーツの日本人、そもそも国籍は日本でもない人がそれぞれ考えを言うと。少なくともこの3つのアイデアはありますよね。他に日本人と他の国のミックスの方もいましたし。そうすると4つのアイデアが生まれます。いいところを取って、つなげて、勝利と」

「ほぼ誰も想像していなかった」ベスト8は、「いろんな人がいて、いろんなアイデアがあったから」成し遂げられたのだと、石野さんは考えている。

代表国が「好き」という気持ち

一方で、外国ルーツを持つ人が、単純に損得勘定だけで代表国を選ぶということはないようだ。そこには、日本の一員になりたいという思いがあるという。

2015年のミス・ユニバース日本代表の宮本エリアナさん(25)はBBCに対して、日本に対して好意的な感情がなければ、選手はそもそも日本代表にはならないだろうと話した。

宮本エリアナさんは、日本人の母親とアフリカ系アメリカ人の父親のもと、長崎県佐世保市出身で生まれた。幼少時代に、肌の色が黒いからといじめられた経験を持つ。

2015年には、「ハーフ」として初めてミス・ユニバース日本代表に選出され、世界大会トップ10入りを果たした。当時は外見を理由に「日本人ではない」、「日本代表にふさわしくない」などと激しいバッシングを受けたが、むしろ「ハーフ」の日本人の活躍を後押しする存在となった。翌年のミス・ワールド日本代表にインド人と日本人の両親を持つ吉川プリアンカさんが選ばれた際には、吉川さんは宮本さんのおかげだと感謝していた。

宮本さんは、「(自分がミス・ユニバース日本)代表になった時はそれこそすごいバッシングを受けました。日本人じゃないと言われて」と、日本代表に選出された当時を振り返りつつ、「けれども、日本のことが好きじゃなかったら私たちは日本代表になろうと思わない。(中略)ラグビーの海外の人たちも、日本のことが嫌いなら、日本を代表しようとは思わないでしょう。たぶん自分の国で代表になれるよう頑張っているはず」と強調する。

多様性の受け入れ方は試合結果次第?

ラグビーW杯を通じて、日本の多様性への見方はポジティブな方向に変わったと言えるだろう。

日本では今年、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる。世界の目が日本に集まるこの時、ラグビーW杯がきっかけになったこの「変化」を一過性のものにせず、大きな変化の「流れ」として今後も継続できるのかどうか。「流れ」とするためには、選手の出身や成績にこだわり過ぎることなく、選手その人のあり方に注目するのもひとつの方法だ。

宮本さんは、大坂選手が2018年9月に全米オープンで「日本人として初」優勝して以降、周囲の見方が「手のひらを返したように」変わったと指摘。日本は「結果をすごく大切にする」ため、ラグビー日本代表が予選プールで劇的な4連勝を果たしていなければ、今とは状況が異なっていた可能性があると考えている。

「仮に予選で1回も勝てなかったとしたら、『外国人が、外国人が』となってたのかと若干思います。外国人がいるからまとまらなかったとか言われたんじゃないか。もし負けていたら、日本人だけのほうが団結力があったんじゃないだろうかとか」

さらに、たとえ勝っても、「日本人らしさ」への要求は続く。大坂選手の場合、試合後のインタビューなどで度々、「日本語で答えてください」などと得意ではない日本語でのコメントを記者から求められたり、「食べたい和食は?」と質問されるなど、「日本代表選手」感を全面に押し出した報道が目立つ。

それについて宮本さんは、まずは「一個人として」選手を見るべきだと話す。

「素直に一個人として、大坂なおみさんすごいな、応援しようって最初から思えばいい。国籍とかを気にしなくていいと思います。(中略)日本代表だから日本に結びつけたい気持ちもあるだろうけど、なおみさんが好きなら、なおみさんを応援すればいい」

日本代表という「和」

石野さんも、外見や国籍にとらわれず、「日本」というチーム、「日本代表」として見ればいいと話す。

「日本人だからとか、外国人がいっぱいいたからとかじゃなくて。個人プレーというものは今回、目立たなかったですよね。みんなでチームとしてやっていた。それは日本っていう『和』ですよね」

半数を外国出身選手が占める日本代表チームには、「日本の和」があったのだという。

「(日本の和の心は)本当にすばらしいことだと思っている。日本人選手も外国人選手を受け入れてて、逆に外国人選手も日本には来てるんだけど、日本人と一緒に頑張るぞって思ってちゃんとチームとしてやってたじゃないですか。(中略)お互いやるべきことをやったっていう」

さらに石野さんは、今大会で日本中が一斉に応援する姿を見て「日本が変わった」と感じたという。「とても良いタイミングでW杯があったなと本当に今思います」。

同じ国を背負う者として相手を受け入れ、認めること、そして共存していくという意識が芽生えたのかもしれない。

日本代表が多様性の土壌に

日本はまさにグローバル化の「転換期」にあると石野さんは言う。そうした中でのW杯開催は、日本の将来の発展につながる姿勢を示してくれた。

「何が正しくて何が悪いのかは正直、これから見てみないと答えが出ない。一晩では出ない答えだと思う」と前置きした上で、石野さんは、国際色豊かな代表チームを日本社会が受け入れたことについて、「一言言えるのは、こういう土壌、事例ができたことは私はとても喜ばしいことだと思っています。すごくいい事例をラグビーのチームが作ったと。これが少しずつ、国籍関係なく、たとえば会社に入って頑張るぞみたいになっていけばいい」と話す。

石野さんは、今後、優秀な日本の人材が国外へ流出するのではなく、逆に国内に取り込めるような、より多様性豊かな社会へとつながっていくことを期待している。

「優秀な人材が出て行くんじゃなくて、留まるような社会になればもう文句ないですよね。せっかくこういう強い『和』があるんですから。本当に強いですよ日本の『和』は」

「当たり前」になるまでに

2015年大会で南アフリカに勝利した後、五郎丸歩選手は、「ラグビーが注目されてる今だからこそ日本代表にいる外国人選手にもスポットを。彼らは母国の代表より日本を選び日本のために戦っている最高の仲間だ。国籍は違うが日本を背負っている。これがラグビーだ」とツイートした。

https://twitter.com/goro_15/status/645663742466859010?lang=ja


それから4年。日本では今も、外国にルーツを持つ選手のことをわざわざ「外国出身」選手と形容している(この記事でもだが)。彼らの存在が、多様性が「当たり前」になるにはもう少し時間がかかるのかもしれない。



日本の未来を先取り

日本代表キャプテンのリーチ・マイケル選手(31)は今大会前、スポーツ誌「Sports Graphic Number」のインタビューで、「日本代表は何で外国人が多い? 」という質問に対し、こう答えている。

「それが今の日本だから。(中略)ラグビー日本代表の姿は日本の現実だし、未来の姿を先取りしている。ダイバーシティ(多様性)の大切さを社会にアピールできる存在なのです」

試合終了のホイッスルが鳴ったら、敵も味方もないラグビーの「ノーサイド」精神。日本以外のラグビー界ではあまり使われなくなったこの「ノーサイド」という表現が、日本では今も愛されている。その日本を代表するチームは、互いの違いを認め、リスペクトする多様性を広めていくきっかけを国に与えた。

日本は今、多種多様な人々が共存する社会へと一歩ずつ変わり始めようとしているのかもしれない。あるいはむしろ、ラグビー代表が日本の現実と未来を反映しているのだろうか。


ラグビーにおける代表資格――五輪の場合

オリンピック種目としては、男子15人制が過去4度(1900年、1908年、1920年、1924年)開催された。

その後、男女の7人制が2016年リオデジャネイロ・オリンピックから復活し、東京大会でも実施される。

通常の大会とは異なり、オリンピックおよびオリンピック予選では、オリンピック憲章に則り、選手は国籍を持つ国・地域の代表にしかなることはできない。

また、二重国籍を持つ選手が、同じオリンピック予選プロセスの中で、2つの国・地域の代表になることもできない。

1つの国の代表として出場した後、国籍変更などで別の国の代表を目指す場合は、前の代表に最後になった時から3年以上が経過していることや、国際オリンピック委員会(IOC)やワールドラグビーなどの承認を得なくてはならない。