吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 現在、内閣官房に「セキュリティ幹事会」が置かれている。内閣官房には元々、テロ対策幹事会、水際対策幹事会、国際テロ情報収集・集約幹事会といったテロ対策に関する幹事会がいくつかあった。

 水際対策幹事会は、テロリストの入国阻止が目的である。国際テロ情報収集・集約幹事会とは、外務省に置かれて警察、防衛、法務各省からの出向者で成り立っている国際テロ情報収集・集約ユニットを、いわば監督し、もちろん内閣官房情報調査室(内調)とも連携している。

 セキュリティ幹事会は、本来は2020年東京五輪・パラリンピックの警備のために、関係省庁を連携・調整するのが役割である。しかし、実際には、20カ国・地域(G20)首脳会議、ラグビーW杯などに関する警備の調整にも深く関わり、東京五輪が終わるまでは、他のテロ対策関係の幹事会を実質的に包摂するような状況になっている。

 だが、「幹事会」とは、その名の通り関係省庁の代表者による会議の側面が強い。そもそも内閣官房とは、縦割りの省庁の連絡・調整をする「会議室」というのが本質なはずなのだ。そのため、内閣官房が具体的な仕事をするのはおかしいという考え方もある。

 しかし、日本は平和ボケ国家ではあっても災害大国である。そこで1995年に発生した阪神大震災を契機にして、首相直轄の危機管理組織として内閣危機管理監室が内閣官房に置かれ、ここに20年以上にわたる組織としての経験の蓄積がある。災害だけではなく北朝鮮によるミサイル発射や尖閣問題にも対処してきた。そのため国家安全保障会議(NSC)は、ここから派生し、そして連携を取り続けていると言っても過言ではない。両方を合わせて「事態室」と呼ばれる。

 先に述べたように「幹事会」は会議のマネジメントが主たる業務のようになっているので、この事態室の一部が幹事会の実働部隊的に動いているらしい。

 また、セキュリティ幹事会は東京五輪が終われば解散される。しかし、それまでの数年にわたる関係省庁を調整した国家的警備の経験は事態室に何らかの形で引き継がれるだろう。例えばテロだけではなく急な感染症対策といった今まで事態室が行ってこなかった問題も含め、いわば組織に対する「条件付け」だ。

 これはすばらしいレガシーではある。しかし、事態室も内閣官房の一部である以上、各省庁からの出向者が数年いて、また元の役所に戻ってしまう。それでも官僚組織には組織としての経験が前述のように蓄積される。また、以前に事態室にいたことのある経験者が、緊急事態が起きたときには事態室に馳せ参じて協力することになっている。映画『シン・ゴジラ』で「緊参チーム」と呼ばれているものである。
北朝鮮のミサイル発射を受けて政府が開催した国家安全保障会議(NSC)の様子=2016年2月(首相官邸提供)
北朝鮮のミサイル発射を受けて政府が開催した国家安全保障会議(NSC)の様子=2016年2月(首相官邸提供)
 このシステムは日本にしては上手く機能していて、危機発生時の司令室としては、かなりの活躍が期待できる。だが、逆に言うなら事態室は、平素は多くの人員を抱えていないのである。危機管理監室とNSCが各80人ずつぐらいだ。この人数で国家的行事のテロ警備などは本当に十分だろうか。

 それだけではない。縦割りの役所から出向して数年で戻る人は、元の役所の中の独特の発想や利害関係から抜けきれない。