
2020年01月15日 12:18 公開
イギリスのボリス・ジョンソン首相は14日、BBCの単独インタビューで、2015年のイラン核合意を「トランプ(米大統領の)協定」に変更すべきだと話した。この発言について、核合意の継続を求める政府の方針と食い違っているとの指摘が出ている。
アメリカとイランの緊張が高まる中、イランは5日、アメリカなど国際社会と結んだ包括的共同作業計画(JCPOA)に伴うウラン濃縮について、今後は制限を順守しないと宣言した。
これに対しイギリスとフランス、ドイツは共同声明を発表し、イランに核合意を順守するよう要請。14日には、合意違反の解決に向けた「紛争解決メカニズム(DRM)」を発動している。
ジョンソン首相はこの日のインタビューで、アメリカが2015年の核合意に「欠陥がある」としていることを認識していると説明。
この合意以外にもイランの核開発を阻止する方法はあるし、こう述べた。
「(核合意を)破棄するのなら代わりが必要だ。トランプ協定に取り替えよう」
アメリカは2018年にJCPOAを離脱。一方、イランは離脱については言及していない。
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ドナルド・トランプ米大統領はかねて、JCPOAは過去最悪の協定だとしている。
一方ジョンソン首相は今回のインタビューで、イギリスは協定に変更が加えられるまでは継続に尽力すると答えた。
「アメリカの視点では、これは欠陥のある協定だ(中略)しかもオバマ前大統領が交渉したものだ」
「トランプ協定に取り替えよう、それが今必要なことだ。トランプ大統領は自他共に認めるすばらしい交渉人だ」
「協力してJCPOAを替え、トランプ協定に乗り換えよう」
BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長によると、ジョンソン首相は現在の核合意はアメリカが合意できるものにする必要があると感じているという。
「トランプ協定」とは?
BBCのリアリティーチェック(ファクトチェック)チームによると、トランプ大統領は納得できる協定がどのようなものか明確にしていない。
ただし、いくつかの要素については言及してきた。
トランプ氏は、国際原子力機関(IAEA)がイラン全土の核施設に同国の認可なしで立ち入れるようにすべきだとしている。
また、現行の合意はイランのミサイルプログラムや中東地域を脅かす行為、特に、シリアやイラク、イエメン、レバノンの武力組織に対する支援を禁止していないと非難。
ウラン濃縮の制限を2025年以降に加除するというサンセット条項にも不満を示している。
今後、アメリカが関与するイランとの各協定には、こうした要素が組み込まれるとみられる。
首相と外相で食い違い?
イギリスのドミニク・ラーブ外相は下院で、イランが「組織的に合意を順守していない」と非難した。
一方で、核合意に参加しているイギリスと欧州各国は引き続き、合意の継続に尽力すると述べ、「合意を破棄するのではなく、DRMを通じて外交での解決を目指す」と述べた。
最大野党・労働党のエミリー・ソーンベリー影の外相はこれに対し、ジョンソン首相とラーブ外相は「同じ立場には立っていない」と指摘した。
ソーンベリー氏は、JCPOAを「トランプ協定」に取り替えるのがジョンソン政権の方針なのかと質問。「もしそうでないなら、なぜ首相はそんなことを言ったのか」と問いただした。
JCPOAは破棄寸前
ラーブ氏はこれに、イギリスの立場は明確で、首相も核合意を支持していると返答した。
「もちろん合意を維持したいと思うこともできるが、アメリカとイランを広義の和解に導こうという野心が必要だ。それが我々が求めている方針だ」
BBCのジョナサン・マーカス外交担当編集委員は、JCPOAは現在、アメリカとイランという最も重要な2カ国に破棄、あるいは破棄寸前とされ、忘れられている状態だと指摘した。
その上で、DRMの発動は核合意破棄の始まりになるだろうと分析している。