加えて将来、中国がこのままの勢いで大きくなり、相手が日本との共同声明を平気で踏みにじることが常態化したとき、日本はどう反論するのだろうか。

 ちなみに、蔡英文政権に対し「大陸がプレッシャーをかけたことが裏目に出た」と今回の総統選を振り返る記事が日本のメディアで目立ったが、習政権も理由もなく圧力を使ったわけではない。蔡政権が「一つの中国」を両岸で確認した「1992年コンセンサス(合意)」を認めないとの立場を取ったからである。

 「1992年コンセンサス」は国民党政権時の約束だが、そうだとしても台湾政府の選択に違いはない。馬英九政権下ではこれを基礎にさまざまな協定も結ばれた。それを政権交代した蔡政権が「存在しない」とやれば、リアクションが大陸から起きるのは無理のない話だ。

 その上で蔡総統の再選をどうとらえるのかについて少し書いておきたいのだが、これも実は「台湾の親日」と同じく、恒久的なものと考えるのは間違いである。「今日の親日は明日の反日」というのが国際政治のリアリティーだ。どちらに転んでも備えられる状況を確保することこそ、真の外交である。

 その意味で、一つの命題を日本は持つべきだろう。それは、もし韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長が真に台湾の人々の期待に応えられる人材であったとしたら、蔡総統再選は同じようにかなったのだろうか、という疑問だ。これは「韓国瑜フィーバー」の絶頂期の勢いから香港問題の影響を引く計算になると思うが、ひょっとしたら多少の減速があっても国民党が勝ち切ったかもしれない。

 香港のデモがいまだ勢いを失っていないことを考慮すれば、蔡総統への追い風も続くと思われる。だがいったん、反中というフィーバーから覚めたとき、台湾に戻ってくるのは経済政策で迷走を続け、統一地方選で大敗した当時の空気だ。

2020年1月、台湾北部・新北市の集会で演説する最大野党、国民党の総統候補、韓国瑜氏(共同)
2020年1月、台湾北部・新北市の集会で
演説する最大野党、国民党の総統候補、
韓国瑜氏(共同)
 そうでなくても打つ手に乏しい経済政策に加え、中国からの有形無形の嫌がらせに直面する政権の行く手は平らな道ではない。

 地域の経営に行き詰まったとき、蔡政権が中国の脅威を強調して求心力を高める方向に舵(かじ)を切ることは十分に考えられる。2019年度の防衛予算を対前年比で5・6%増やし、米国から兵器を買い入れているのは、そんな未来を示す一つの兆候だ。本来、経済対策につぎ込むべき予算をそちらに投入してしまえば、悪循環は止まらない。

 もし、台湾周辺に人工的な緊張が高められたとき、巻き込まれるのは一に米国であり、二に日本だ。日本はそうした事態にも備えなくてはならないはずだ。