高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

 2020年1月11日、台湾で総統選の投票が行われた。与党・民進党の現職、蔡英文総統が史上最多となる817万票を獲得して圧勝した。

 18年11月の統一地方選では民進党が惨敗し、蔡総統は党主席辞任にまで追い込まれた。一時は「総統選に出馬しないのでは」とまでささやかれていた土壇場からの大逆転劇はどのようにして生まれたのか。

 風向きを変えたのは、中国と香港の動きだ。19年1月、中国の習近平(シーチンピン)国家主席が演説で、武力行使の可能性にも触れて統一への強い意欲を打ち出した。香港では6月、逃亡犯条例の改正問題を機に政府への抗議デモが本格化。市民の声に耳を傾けず、弾圧を強める香港政府と、その背後にいる中国政府の姿を台湾市民は注視し続けた。


 こうしたストーリーはほとんどのメディアに共通している。中国の締め付け、圧力に対して台湾市民はノーを突きつけた。中国にすり寄って経済的繁栄を得るか、それとも独立した民主主義を守るかという選択肢が突きつけられる中、台湾は後者を選んだのだ、と。

台湾総統選の開票速報を見ながら小旗を振る民進党の蔡英文総統の支持者=2020年1月、台北市(共同)
台湾総統選の開票速報を見ながら
小旗を振る民進党の蔡英文総統の支持者
=2020年1月、台北市(共同)
 もちろん、このストーリーそのものは間違いではない。香港デモの問題が台湾に与えた影響も大きいだろう。

 だが、その前提として抑えておくべき「ファクト」がある。それは中国による台湾「制裁」が極めて限定的な効果しかもたらさなかったこと、蔡英文政権が安定的な経済運営に成功したという点だ。