これらの経済統計から何が読み取れるのだろうか。第一に中国の経済制裁がもたらす効果は極めて限定的という点だ。中国人観光客の数が激減すれば、それをメインで商売していた旅行会社や免税店は致命的な打撃を受ける。彼らの怨嗟(えんさ)の声はあちらこちらのメディアを賑(にぎ)わし、台湾全土が「制裁」で七転八倒しているかのような印象を受けるであろう。

 輸出にしてもそうだ。一部農作物など中国向けで食べていた人たちにとっては死活問題となる。

 ただ、こうした「制裁」はごく一部の人々に重大な打撃を与えるものであっても、国家経済を揺るがすものではなかった。中国が本気で経済的打撃を与えようとするならば、主力輸出産業である半導体産業との関係を切るのが一番だが、それは中国企業にとっても耐えがたい痛みとなるだけに、容易にとれる選択肢ではない。

 第二に蔡政権が安定的な経済運営に成功した、すなわち台湾が成熟した政権交代に成功したという点だ。経験のない政党が与党になると混乱が起きやすいのは、日本人ならば多くの人が同意するところだろうが、2回目の与党となる民進党は大きな混乱がなく、見事な経済運営を実現したと評価できるのではないか。

 イノベーション促進、ベンチャー育成、バイオや軍需産業育成といった、2016年総統選時の蔡総統の公約が成功したとは現時点では評価できないが、少なくともやらかしてはいない。現職および与党に対する最大の評価項目は政治運営能力であり、最も重要な部分で合格点を出しているわけだ。

2019年1月2日、「台湾同胞に告げる書」発表から40周年を記念する式典で演説する中国の習近平国家主席(共同)
2019年1月2日、「台湾同胞に告げる書」
発表から40周年を記念する式典で演説する
中国の習近平国家主席(共同)
 「経済か、独立か」という二択で台湾市民は後者を選んだ…。このストーリーはなんとも美しいが、政治はワンイシューでは決まらない。なにより「衣食足りて礼節を知る」ではないが、経済的基盤が守られなければその先の思想を考える余裕すらなくなる。こうした原則的な面も踏まえておくべきだろう。

 また、今年は習主席の国賓訪問が予定されるなど日中関係は改善に向かっているが、尖閣諸島問題や歴史問題などの懸案が残っている以上、5年、10年というスパンでみれば、関係が再び悪化する可能性は高い。その意味でも、台湾で何が起きたかは、日本にとって重要な参考事例だといえる。