ところで、肝心の緊縮政策と反緊縮政策の中身についてもう少し詳しく説明したい。

 緊縮政策は、不況もしくは不況から十分に回復しない段階で、財政政策では増税、公的予算削減など政府から出るお金を引き締める政策だ。景気対策のもう一つの軸である中央銀行が実施する金融政策も、財政政策に合わせてお金を引き締めるスタンスになる。

 不況のさなかに、なぜ政府や中央銀行はお金を絞る政策を採用するのか。緊縮政策を主張する人たちは「清算主義」という考えにとらわれている。

 不況によって、経営がでたらめな企業が倒産したり、怠けて技能を向上させない労働者が職を失うことがあるが、この状況を経済の非効率的なものが「清算」されたと考えるのだ。本来であれば、企業は困難に打ち勝つアイデアや組織作りに励む。労働者も、職を得るために自らの技能を磨き、より高度な教育を受けようとするだろう。

 このような民間部門の自助努力が経済全体をより高みに持ち上げる、と緊縮政策を支持する人の多くは考えている。「破壊なくして創造なし」なのである。

 反対に、反緊縮政策は不況もしくは不況から十分に回復しない段階で、減税や公的予算の増加といった財政拡張政策や、金融政策は出来るだけお金を出すというスタンスを支持する。反緊縮政策を行わないと、民間の自助努力だけでは、いつまでも経済はよくならないと考えている。これは「合成の誤謬(ごびゅう)」としても説明することが可能である。

 例えば、不況においては、商売の売り上げも落ち込んでしまう可能性が高まる。多くの経営者たちはやむを得ず、従業員の給料をカットしたり、新規採用を控えたり、さらにはリストラを断行するだろう。不況下では、致し方がない経営者の合理的な態度だといえる。この姿勢を批判しても始まらない。

 ただ、不況の中で、リストラに励む経営者が多く出始めたらどうなるだろうか。給料がカットされたり、職を失った人たちは、なおさらお金を使わなくなる。つまり、経済全体では不況がさらに加速してしまうのだ。
12月の日銀短観では、企業の景況感の悪化が鮮明になった=2019年12月、東京都中央区の日銀本店
12月の日銀短観では、企業の景況感の悪化が鮮明になった=2019年12月、東京都中央区の日銀本店
 本来、不況下では正しい個々の経営努力も、経済全体では不況をさらに深めることで、かえって個々の経営者や労働者をさらに苦境に陥らせる。これを「合成の誤謬」というのだ。

 先の緊縮政策では、不況下でのリストラはむしろ肯定的だったが、反緊縮政策では社会的な害悪そのものになる。民間の経営者や労働者の努力ではどうにもならず、むしろ景気をさらに悪化させかねない。そのため、政府や中央銀行が積極的な景気対策を行う必要が出てくる。これが反緊縮政策の考え方の基本である。