「不景気になれば、政府は景気対策をしているではないか?」と多くの読者は思われるかもしれない。だが、少しでも考えれば、現実はそうとも言い切れないことがわかる。

 現在の日本経済は、米中貿易戦争の影響で落ち込み始めている。このタイミングで、昨年10月に消費税率の10%引き上げを実施した。これでは、世の中にお金が出回らない緊縮スタンスになってしまう。ただし、日本の経済政策が総じて緊縮志向かといえば、そうとは言い切れない。実にちぐはぐな対応をしているといえる。

 1月20日に通常国会が召集されたが、安倍晋三首相は衆参本会議で行った施政方針演説で、「経済再生なくして財政健全化なし」という基本方針を示した。経済再生が最優先されるのだから、日本経済が不況に陥らないことが第一となるはずだ。

 だが他方で、あれほど強調していたデフレ脱却が後景に退いてしまった。日本のインフレ率は、まだ目標の2%のはるか手前だ。景気の下降は既に一昨年の段階から進んでいる。経済の先行きを示す景気動向指数(CI、先行系列の6カ月前・対比年率)を参照すると、2018年7月から経済の先行きのボリューム感がマイナスに転じ、それは徐々に拡大しながら今日に至っている。

 今国会では、補正予算案や過去最大の予算が組まれようとしているが、少なくとも景気下降を長期間放置していたことは明白である。その中で景気に悪影響を与える消費増税を実行したのだから、経済再生最優先を採用しているとは言い難い。

 ただし、安倍政権の経済政策を全て否定するつもりなど筆者にはない。「今の安倍政権は史上最悪の緊縮政権だ」と発言する奇妙な人たちがいるが、全くおかしな話である。それほど厳しい緊縮政策なら、そもそも補正予算も編成しない。

 よほど政治的なイデオロギーで目が曇っていなければ、雇用の改善は明白である。失業率は政権発足時の4・4%から2・4%に下がり、就業者数も400万人も増加した。失業率は自殺者数と連動していることが知られている。失業率の大幅な低下と自殺対策への予算増加の貢献で、昨年はついに自殺者数が2万人を下回った。

 この数字を虚構だとして批判するおかしな人たちがいるが、経済評論家の上念司氏がフェイスブック上で痛烈に批判しているのでぜひ参照されたい。つまり、安倍政権の経済政策は、元々は反緊縮政策なのだ。日本銀行の大胆な金融緩和はそのコアを成す。反緊縮は雇用を守るだけではなく、人命も守るのである。
衆院本会議で施政方針演説に臨む安倍首相。左は麻生財務相=2020年1月20日
衆院本会議で施政方針演説に臨む安倍首相。左は麻生財務相=2020年1月20日
 だが、既に指摘したように、今の状況が実にちぐはぐしていることは確かだ。最近、「文春オンライン」で、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大教授が、消費増税は緊縮財政だとして、インフレ目標に達して好景気になるまで待たなかった安倍政権の経済政策を「首尾一貫しない」と批判しているのは、この点を突いている。もちろん、クルーグマン教授の発言を持ち出すまでもなく、消費増税と「アベノミクス」は整合的ではない。

 経済政策で首尾一貫せずに、失業率の再上昇などで長期停滞に完全に戻ってしまえば、『ジョーカー』のような極端な思想に振れた人々が過激な活動を始めてしまうかもしれない。既にネット上では、全否定か全肯定かでしか考えられない人たちを多く見かける。それを受け入れる悪しきポピュリズムの動きも政治の中で見られる。その動きの本格化を防ぐには、まっとうで首尾一貫した反緊縮政策を推し進めるしかないのである。