だが、「就活セクハラ」問題で露呈したように、この法改正には抜け穴があった。就職活動中の女子学生や、取引先の女性労働者、委託労働といった労働基準法で保護されない中で働く女性労働者は、保護対象外となりうることが顕在化したのである。

 これを受けて、厚労省は現在までに公表しているパワハラの6類型を細分化し、どのような言動や行動がハラスメントに当たるかを定義するとともに、就活生や労働基準法で保護されない委託労働者など、社外の女性に対するハラスメント行為を防ぐことも企業に求める方針を打ち出した。それでも、「労働者の実態に沿うものになるのか」と疑問視する声は依然として強い。

 厚労省のハラスメント対策の穴については、言うまでもなく弁解の余地はない。しかしながら私は、根本的な原因は他にあると考えている。その一つが、会社というフィルターを通してしまえば、犯罪が犯罪と意識されなくなってしまうことを、社会の誰も指摘しないことである。

 少し説明を加えたい。例えば、人を殴ったり恫喝(どうかつ)すれば、問答無用で逮捕される。それなのに、会社内でこのようなことが行われても、「パワハラ」というソフトなイメージの言葉に包まれて、誰も糾弾しなくなるのはなぜだろうか。

 セクハラも同様である。男性が女性に対して一方的な性的いやがらせを行えば、やはり問答無用で性犯罪者として逮捕される。それなのに、会社の中で行われた加害は、なぜ「セクハラ」というソフトな言葉に覆われて、有耶無耶(うやむや)にされがちなのだろうか。
 
 会社というフィルターを通すと、皆が犯罪として認識されなくなってしまう現象について、私は、日本国憲法28条と労働組合法が機能していた時代の悪影響ではないかと考えている。
2019年11月、厚労省で行われた記者会見で就活ハラスメントの経験を話す町田彩夏さん(左)ら
2019年11月、厚労省で行われた記者会見で就活ハラスメントの経験を話す町田彩夏さん(左)ら
 憲法28条ならびに労働組合法では、労働者が労働組合を作る権利、会社と対等の立場で交渉を行う権利を保障している。逆に言えばこれは、会社内においては、労働者が自治権を持っているので、第三者の介入を許さない権利ともいえる。

 労働関係法令を中心に取り締まりを行う警察官(特別司法警察員)でもある労働基準監督官は、全国で3241人(2016年現在)しかいない。