重村智計(東京通信大教授)

 北朝鮮では、昨年の大晦日(おおみそか)から新年にかけて、幹部の「大虐殺」が行われていた。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近とされる李洙墉(リ・スヨン)党副委員長と李容浩(リ・ヨンホ)外相の姿が消えた。2人は党中央委員会総会の終了後に撮影された記念写真に写っておらず、各国の情報機関は解任と判断した。

 李党副委員長は元スイス大使で、金委員長のスイス留学の面倒を見た「恩人」だ。スイス銀行に預けられた秘密資金の管理者であり、多くの秘密を握っている。

 そんな「キーマン」の解任だけに衝撃は大きい。これで、祖父・金日成(キム・イルソン)主席と父・金正日(キム・ジョンイル)総書記に仕えた老幹部はほぼ一掃され、金委員長直属の「若手家臣団」がずらりと並んだ。

 解任された老幹部たちは「若造に何ができるか」と不満を隠さなかった、と平壌(ピョンヤン)では噂されている。北朝鮮は解任された高官の氏名を公表していない。

 1月1日、朝鮮中央通信が大晦日に終了した党中央委総会で新たな幹部人事が決定したと報じた。同通信によると、党副委員長に4人が任命されており、同数の4人が解任されたことになる。そのうちの1人が李洙墉氏だ。さらに、政治局員3人と政治局員候補6人が入れ替わり、10人の党部長や4人の閣僚も交代したと報じられた。

 およそ20人の最高幹部クラスが新任された。公表されない解任と新任の幹部を含めれば、100人規模の人事が行われたことは想像に難くない。文字通り「大晦日の虐殺人事」である。

 ところが、メディアはこの大人事異動を無視した。人事の裏には、平壌の勢力争いが常に隠されている。クーデター容疑で処刑した叔父の張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長につながる高官の残党が、粛清されたとの観測がある。
2019年12月30日に開かれた、朝鮮労働党中央委員会総会の3日目の会議(朝鮮中央通信=共同)
2019年12月30日に開かれた、朝鮮労働党中央委員会総会の3日目の会議(朝鮮中央通信=共同)
 唯一うまく立ち回り、生き残ったのは金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長だけだ。なかなかしぶとい男である。

 北朝鮮は昨年12月20日に、年末の党中央委総会で「重大問題を討議、決定する」と発表していた。ただし「重大問題を討議する」と述べても、「(重大問題を)決定する」と表現したわけでない。