田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 新型コロナウイルスの脅威が高まっている。中国本土では、ウイルスによる肺炎の死者が81人、患者数は2744人になり、世界中では3千人に迫る規模で増加している。武漢市当局者の発言や医療従事者の証言によれば、市内ではさらに1千人規模で感染者が増える可能性があり、感染力自体も高まっている。

 既に日本でも患者が確認されており、今後も社会的な防疫体制の強化が必要だ。日本政府はチャーター機を手配するなどして、武漢からの邦人の全員帰国を実現しようとしている。

 ただ、新型コロナウイルスに関して、これまでの日本政府の広報体制は十分なものとはいえない。画像を参照してほしいが、27日早朝の厚生労働省のホームページには、季節性のインフルエンザに対する注意喚起程度しかない、といっていい状況だ。参考として紹介している国立感染症研究所の情報も、単なるコロナウイルスの種別解説しか記載がない。

 他方で、インターネット上では、国内外の報道や医療関係者の具体的な発言を無数に確認することができる。もちろん、その中には虚偽の伝聞や、過剰な煽りも多い。

 日本政府の情報発信のレベルの低さは、すなわち危機管理力の決定的な遅れだ。社会的な疫病対策には、病そのものへの対応と同時に、社会的な不安を抑制する仕組みも必要だろう。その点で、日本政府の情報発信はまさに稚拙以外の何物でもない。

 NHKでは、世界保健機関(WHO)の発表を紹介し、ウイルスの感染力が患者1人から2・5人(以前は1・4人)に拡大していること、致死率は3%であることを伝えている。感染力や致死率は、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に比べれば格段に低い。ただし、多くの医療関係者は、人から人に感染していく中での変異を懸念する声も多い。

 昨夏大きな注目が集まった日韓の輸出管理問題では、当時の経済産業相だった自民党の世耕弘成参院幹事長が積極的にツイッターでマスメディアの報道の問題点や、制度自体の詳細を解説して、国民の誤解を防ぐ役割を果たしてきた。河野太郎防衛相も、外相時代から始めた外交・防衛活動を現職まで続けることで、リアルタイムに政府の取り組みを知らせることに成功したといえる。

 だが、今回の件では、加藤勝信厚労相の積極性は皆無だ。上述の通り、厚労省の広報もネット時代に対応できておらず、全くダメだ。
車両の通行が制限され閑散とする中国・武漢市内=2020年1月26日(共同)
車両の通行が制限され閑散とする中国・武漢市内=2020年1月26日(共同)
 繰り返すが、社会的な防疫体制に、今はネットによる情報発信が極めて重要だ。その意味で、政府の現時点の対応は稚拙なものである。

 最近の報道では、SARSとの比較が目立つが、新型ウイルスの猛威によって世界中で多くの人命が損なわれたのは、約1世紀中では1918年のインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)だろう。そのときの経験から学べる教訓は多い。