田岡春幸(労働問題コンサルタント、元厚生労働官僚)

 職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を企業に義務付ける労働施策総合推進法の改正案が昨年5月、可決・成立した(施行は大企業では2020年6月、中小企業では22年4月の予定)。

 この法改正の背景には、労使間のトラブルを扱う全国の労働局の労働紛争相談に寄せられたパワハラを含む職場の「いじめ・いやがらせ」に関するものが2018年度に8万2797件に上り、年々増加していることがある。それだけ職場におけるいじめやいやがらせが深刻になっているということである。

 法改正の特徴は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と、定義したことだ。

 これまでは「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」などが示されていただけであったが、法律で定義づけされた意義は大きい。

 パワハラ関連で注意しなければならないことは、刑法などに該当する場合は、パワハラ防止法に関係なく、当然だが「一発アウト」であるということだ。あくまでも法律には抵触しないが、グレーで判断できない場合に今回の法律が適用されるということである。

 定義を具体的に見ていくと、「優越的な関係を背景にした言動」とは、「言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係」である。

 上司はもちろん、同じ職位、部下であっても発言権の強い人の言動は内容次第でハラスメントと言える。男性が女性に高圧的な態度をとったり、新入社員にベテラン社員がいやがらせ発言をしたりすることなどが挙げられる。同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗、拒絶することが困難であるものも含まれる。

 また、「業務上必要な範囲を超えたもの」とは、社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないもの。「業務上必要な範囲」とは、「ここは間違っているので直して」などの業務上の必要な指示だ。「超えたもの」とは、「こんなのもできないのか、このバカ」「給与ドロボー」などである。

 これらの発言は人格否定になる。特に後者は経営者が口にしやすい発言であり注意が必要だ。当該行為の回数、行為者の数など、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動も含まれる。

 「就業環境を害する」とは、当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること、としている。
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京都千代田区(納冨康撮影)
厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館=東京都千代田区(納冨康撮影)
 注意したいのは、「善意の指導つもり」や「自分たちもこうして成長した」「昔はこうだった」という自分の意図(意思)は関係なく、行為や発言そのものが問題になる点だ。スポーツ界で最近パワハラ報道が多く見受けられるが、これは今までの指導を踏襲したりすることでパワハラが起こることが多い。叩いたり、殴ったりするのはパワハラを超えた犯罪であると今一度認識するべきである。