2020年01月29日 14:02 公開

ドナルド・トランプ米大統領は28日、長く待ち望まれていた中東和平案を発表した。エルサレムについて、イスラエルの不可分の首都とし続けることを約束する内容になっている。

トランプ氏の案では、パレスチナを独立国家とする。同時に、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地でイスラエルの主権を認める。

トランプ氏は米ホワイトハウスで、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と並んで会見。今回の和平案は、パレスチナにとって「最後のチャンスかもしれない」と述べた。

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一方、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は、トランプ氏の和平案を「謀略」としてはねつけた。

アッバス氏はヨルダン川西岸ラマラでテレビ演説をし、「トランプとネタニヤフに告げる。エルサレムは売り物ではない。私たちの権利は売り物ではないし安売りもしない。あなた方の取引、謀略は通用しない」と述べた。

パレスチナ市民は抗議

世界最長級の紛争の解決を目指す今回の和平計画は、トランプ氏の義理の息子ジャレッド・クシュナー氏の主導で立案された。

ガザ地区では28日、パレスチナ市民数千人が抗議行動をした。一方、イスラエル軍は、ヨルダン川西岸の入植地に駐留する部隊を増員した。


この日のトランプ氏とネタニヤフ氏の共同声明は、両氏がそれぞれの国内で政治的な難題に直面する中で発表された。

トランプ氏は現在、米上院で弾劾裁判の対象となっている。一方、汚職疑惑が出ているネタニヤフ氏は訴追免除を求めていたが、28日にこれを断念した。両氏とも不正はしていないと主張している。

アメリカのデイヴィッド・フリードマン駐イスラエル大使は、声明が出されたタイミングはいかなる政治問題とも無関係だと述べた。さらに、声明は時間をかけて「よく練られた」ものだとした。

報道によると、ネタニヤフ氏はヨルダン川西岸の入植地の30%を併合する方針で、この計画は2月1日の閣議で採決される予定だという。

ヨルダン川西岸の複数の入植地には、計40万人を超すイスラエル人が暮らしている。こうした入植地は国際法違反とされているが、イスラエルは異議を唱えている。米政府も昨年11月、「国際法違反とはみなさない」と従来の方針を転換した。

フリードマン大使は、西岸地区の併合を進めるにあたりイスラエルは「待つ必要はまったくない」と述べた。

和平案のポイント

トランプ氏はホワイトハウスの記者会見で、「今日、イスラエルは平和に向けて大きく一歩前進した」と述べた。

さらにトランプ氏は、「私のビジョンは、両者にとってウィンウィンとなるものだ。パレスチナ国家が成立してもイスラエルの安全を脅かさないようにする、現実的な2国家共存策だ」と続けた。

和平案の主な内容は次の通り――。

  • アメリカは、今回の計画でイスラエルの一部だとみなす入植地について、イスラエルの主権を認める。計画には概念地図も含まれ、イスラエルが前向きだとトランプ氏が述べる、領土についての譲歩案が示してある
  • その概念地図は、「パレスチナの領土を2倍以上にし、エルサレム東部にパレスチナの首都を置く」ことになる。アメリカはその首都に大使館を開設すると、トランプ氏は述べている。パレスチナ解放機構(PLO)はトランプ氏の計画について、パレスチナが「歴史的パレスチナ」と呼ぶ土地の15%で、パレスチナが管轄権を得ることになると指摘した
  • エルサレムは「イスラエルの不可分の首都であり続ける」。聖地エルサレムをめぐっては、イスラエルとパレスチナの双方が領有権を主張している。パレスチナは、東エルサレム(1967年の中東戦争でイスラエルが占拠)が将来建設する国家の首都になるとしている
  • パレスチナは「完全に自分たちの独立国家を実現」する機会を得る。ただし、トランプ氏は詳細をほとんど示していない
  • 「パレスチナ、イスラエルの誰も、住まいから追い出されない」。イスラエルが占拠するヨルダン川西岸の現在のユダヤ人入植地はそのままとなることを示唆している
  • イスラエルはヨルダン国王と協力し、エルサレムの主要聖地「神殿の丘」の管理を現状のまま維持する。ヨルダンはこの場所を管理する宗教法人を運営している
  • トランプ氏の地図でパレスチナに割り当てられた領土は、「4年間、開発せずオープンな状態にする」。その間にパレスチナは、合意について研究し、イスラエルと協議し、「国家としての要件を満たす」ようにする

トランプ氏は、「パレスチナは、テロリズムと過激主義を前進させようとする人々の手先として利用され、貧困と暴力のただ中にある。もっと良い暮らしができるようにするべきだ」と述べた。

トランプ氏はツイッターで、「未来のパレスチナ国家はこのようなものになり得る、首都は東エルサレムの一部に置かれる」とし、地図を示した。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1222224528065155072


トランプ氏はまた、計画ではヨルダン川西岸地区が半分に分割されることはないとした。

また、「私たちはさらに、将来のパレスチナ国家の中にひと続きの領土をつくるための努力をする。これは(パレスチナが)テロリズムの断固たる排除を含めた、国家の条件を満たすときのためだ」と述べた。

イスラエルの当局者によると、ネタニヤフ氏は29日にモスクワを訪問し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と和平案について協議する予定だという。

BBCのジョナサン・マーカス防衛外交担当編集委員は、トランプ氏の和平案を、「実質的にイスラエルの有利になるようにまとめたもの」と論評した。

「トランプ大統領はパレスチナに国家を提供するとしたが、それは非常に簡略化されたものとなる」、「問題は、この案がどんな利益をもたらし得るかより、パレスチナの願望を打ち砕くことで、どれだけの損害を招くかだ」と、マーカス記者は指摘している。

「千回でもノー」

パレスチナ自治政府のアッバス氏は、エルサレムを首都としないパレスチナ国家を、「パレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒、キリスト教徒の子どもは誰も受け入れられない」と演説で述べた。

「千回でもノー、ノー、ノーと言う」とアッバス氏は話し、「最初からこの案は受け付けなかったし、その姿勢は正しかった」とした。

ガザ地区を制圧しているパレスチナのイスラム系武装グループのハマスも、「パレスチナ国家の計画の解体」を狙ったものだとして、和平案をはね付けた。

国連は、イスラエルがヨルダン川西岸とガザ地区を奪った1967年の戦争以前の国境に基づいた、2国家共存の解決を引き続き支持するとした。

アントニオ・グテーレス事務総長の報道官は、国連は国連決議と国際法、双方の合意に基づいた和平を求めると述べた。

イスラエルの人権団体ベツェレムは、今回の案は一種のアパルトヘイトを想定したものだと表明。パレスチナの人々は、「自分たちで生活をコントロールできない、狭く、周囲を囲われ、孤立した居留地に」追いやられると批判した。

イスラエルのNGOピース・ナウは、和平案を「人目は引くが、現実離れしている」とした。

「穴の開いたパレスチナ国家と引き換えにイスラエルの入植地併合を認めたのは、実現不可能であり、安定をもたらすものではない」

イギリスのドニミク・ラーブ外相は、パレスチナに対し、和平案を「誠実で公平な態度で検討し、交渉に戻る第一歩となり得るか探る」よう求めた。


<解説> ジョナサン・マーカスBBC防衛担当編集委員

中東和平交渉ではこれまで、最も困難ないわゆる「最終地位」に関わる諸問題は、イスラエルとパレスチナの直接交渉で解決すべきと位置づけられてきた。困難な諸問題とは、国境やイスラエル入植地、エルサレムの扱い、パレスチナ難民の帰還権などの各論だ。

それはもはや過去の話だ。トランプ大統領が提案し、ネタニヤフ首相が歓迎した合意案は要するにこうした各論をどれも、イスラエルに都合よくまとめたものだ。

パレスチナ側はただ不在だっただけではない。トランプ政権が一方的に駐イスラエル大使館をエルサレムに移動して以来、パレスチナ自治政府はトランプ政権をボイコットしている。しかし米政府は今回、要するに最終通告をパレスチナに突きつけた。トランプ氏が決めた枠組みを受け入れるか、さもなければ……ということで、了承するまでの猶予は4年だ。

トランプ大統領は確かにパレスチナに、独立国家樹立の機会を提示している。しかしそれは、パレスチナ人が望んだ形に遠く及ばない。イスラエル入植地の撤収はなく、それどころか入植地やヨルダン渓谷にイスラエルの国家主権を認めるというのだ。そして、パレスチナは東エルサレムの郊外に首都を置くことになるかもしれない。

「これで嫌なら、それっきりだ」というトランプ政権のこの姿勢に、この地域を長く見てきた人たちはとんでもないことだと反発するだろう。この合意案にどういうメリットがあるかよりも、パレスチナ人の希望を覆すことでどれだけの害をもたらすのか。今後はその方が問題となる。


(英語記事 Trump releases Middle East plan with Netanyahu