福田充(日本大学危機管理学部教授)

 中国の武漢で発生し、今や世界に感染拡大した新型コロナウイルスによる肺炎に対する措置として、日本政府は武漢の在留邦人を政府チャーター機で帰国させた。一方で、武漢からの観光客を乗せたバスの運転手やガイドがこの新型肺炎に感染し、日本国内でのヒト-ヒト感染も拡大している状況である。

 新型インフルエンザなどの感染症によるパンデミック(世界的大流行)で最も大切なことは、初動対応の判断である。「危機管理学」でいえば、これは発生後の危機管理(クライシス・マネジメント)にあたる。

 この初動対応において、政府は危機管理のための指揮命令系統として、さらには社会全体に向けた情報伝達としてのクライシス・コミュニケーションを実行せねばならない。既に、今回の新型肺炎に対する日本政府の初動対応の遅れが指摘され、批判されているが、その側面は否定できないであろう。

 発生源であった中国政府の対応自体が遅れ、後手に回ったことと、中国政府からの情報発信自体が積極的でなかったことに問題があった。武漢市民の移動規制や封鎖措置は、既に新型肺炎が武漢で蔓延(まんえん)し、武漢市民をはじめ感染者が世界各国に拡散し始めた後のことであった。

 世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルスに対する世界的な危険度評価も当初は「中程度」と発表していたことが、世界各国の政府の対応を鈍らせた原因の一つでもある。その後、WHOは世界的な危険度評価を「高い」と表記すべきであったと訂正した。WHOが新型コロナウイルスに対して「緊急事態宣言」を発表したのは1月31日になってからである。

 これら発生源の中国の状況、そして国際機関であるWHOの対応を見ながら日本の対応を検討するというスキームにおいては、今回の日本政府の対応の遅れはシステム上仕方なかった側面はある。ただ、こうしたスキームの中でも素早く決断し、日本独自の対策をとるのが「政治判断」の重要性であろう。これは世界のリスクに対するインテリジェンス機能の問題であり、そのインテリジェンス機能から政治的な決断をする、普遍的な危機管理の課題である。
中国の習近平国家主席(右)と会談するWHOのテドロス事務局長=2020年1月28日、北京の人民大会堂(共同)
中国の習近平国家主席(右)と会談するWHOのテドロス事務局長=2020年1月28日、北京の人民大会堂(共同)
 日本政府は法的な手続きを経て、新型コロナウイルスを感染症法に基づく「指定感染症」に指定することで本格的な対応に着手することが可能となった。施行日を2月7日としていたことが事態の緊急性を反映していない対応の遅さを表しているが、WHOの緊急事態宣言を受けて、2月1日に施行を前倒しにすることができた。

 感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく、政府行動計画には以下の五つのポイントが示されている。その中には、危機管理学の重要な要素であるインテリジェンス、リスク・コミュニケーション、セキュリティー、ロジスティクスの4要素が含まれている。

(1)外国や国内での発生状況、動向、原因の情報収集(インテリジェンス)
(2)地方自治体、指定公共機関、事業者、国民への情報提供(リスク・コミュニケーション)
(3)感染症の蔓延防止に関する措置(セキュリティー)
(4)医療の提供体制の確保のための総合調整(ロジスティクス)
(5)国民生活や国民経済の安定に関する措置(セキュリティー・ロジスティクス)


 この五つの基本計画はこの新型コロナウイルス対策においても踏襲される。