
2020年01月31日 13:26 公開
トム・エジントン、BBCニュース
イギリスは1月31日午後11時(日本時間2月1日午前8時)に、EUを正式に離脱する。しかしすぐに、11カ月の移行期間に突入する。
移行期間中はEU法を遵守するし、予算も拠出するなど、イギリスは離脱前とほぼ同じ関係をEUと保つ。一方で、離脱した瞬間から変わる点もある。
1. イギリスの欧州議会議員は議席を失う
ナイジェル・ファラージ氏やアン・ウィディコム氏など、イギリスの欧州議会議員73人は自動的にその議席を失う。
これはブレグジット(イギリスのEU離脱)の瞬間、イギリスはEUの全ての政治機関から離脱するからだ。
しかし、移行期間中はEU法に従う必要があるほか、司法上の争いについては、欧州司法裁判所(ECJ)が最終判断を下す。
2. EU首脳会議にも参加しない
イギリスのボリス・ジョンソン首相は今後、EU理事会の首脳会議に参加したい場合は、特別な招待が必要となる。
イギリスの閣僚も、EUでの定例会議には参加しない。定例会議では、漁業権の調整などが行われている。
3. 通商協定についての話題が増える
イギリスはEU離脱後、世界各国と独自の通商協定を結べるようになる。
EU加盟国だった間は、アメリカやオーストラリアなどと個別の通商交渉を正式に行えなかった。イギリス国内のEU離脱派は、通商協定を独自に決められる自由を持つことで、イギリス経済が活性化すると主張している。
EUと交渉しなくてはならないことも多い。最優先事項はやはり英・EUの通商協定で、移行期間終了後に新たな関税などの貿易障壁が発生しないようにする必要がある。
通商協定は、移行期間が終了してからの発効となる。
4. イギリスのパスポートの色が変わる
現在のイギリスのパスポートは1988年以来、バーガンディーと呼ばれる暗い赤色だったが、それ以前に使われていた青色が復活する。
この変更は2017年に発表された。ブランドン・ルイス移民相(当時)は、1921年から使われてきた「象徴的な」青と金のデザインが戻ってくると歓迎した。
青色のパスポートは段階的に導入され、2020年半ばからは、新たに発行されるパスポートは全て青色となる。
これまでのバーガンディーのパスポートも、引き続き有効だ。
5. ブレグジット記念硬貨
2月1日から、ブレグジットを記念した50ペンス硬貨が約300万枚流通する。記念硬貨には、「1月31日」という日付のほか、「平和と繁栄、そして全ての国と友情」というメッセージが刻まれる。
記念硬貨の発行については賛否両論が起こり、受け入れないというEU残留派もいる。
イギリス政府は、離脱が予定されていた昨年10月31日に合わせて同様の記念硬貨を作っていたが、離脱が延期されたため、この硬貨は「リサイクル」された。
6. EU離脱省は閉鎖へ
イギリスとEUの離脱交渉を担当し、「合意なしブレグジット」の準備をしていたEU離脱省は、離脱日をもって閉鎖される。
EU離脱省は2016年、テリーザ・メイ前首相によって設立された。
通商協定などをめぐる今後の協議は、首相官邸が中心となって行う。
7. ドイツは今後、イギリスに市民の身柄を引き渡さない
ブレグジット以降、犯罪容疑者がドイツに逃げた場合、イギリスへの身柄の引き渡しができない可能性がある。
ドイツ憲法では、EU加盟国以外の国にはドイツ人の身柄を引き渡さないと定められている。
連邦司法省の報道官はBBCニュースの取材に対し、「この例外措置はEU離脱後、イギリスには適用されない」と説明した。
こうした制限が他の国でも発生するかは不透明だ。たとえばスロヴェニアは、状況は複雑だとコメントしている。一方、欧州委員会はコメントは控えると述べた。
イギリス内務省は、EU加盟国間で同じ効力を持つ「欧州逮捕状」は、移行期間中のイギリスでも有効だとしている。(つまり、ドイツはドイツ国籍以外の市民であれば引き渡せる。)
一方で、その国の法律でイギリスへの身柄引き渡しが認められていないのであれば、「その国が当該人物に関する裁判や刑罰を引き受けることになるだろう」と指摘した。
移行期間中に変わらないこと
ブレグジット直後に移行期間が始まることから、少なくとも2020年12月31日までは、EU加盟時と変わらないことがほとんどだ。その一部を説明する。
1. 旅行
飛行機や船、鉄道はこれまで通り運行される。
出入国管理についても、移行期間中は、イギリス人はEU市民専用のゲートを通ることができる。
2. 運転免許証やペットのパスポートなど
有効期間中のものは、そのまま使うことができる
3. 欧州健康保険カード (EHIC)
このカードを持つEU市民は病気になったりけがした場合、EU加盟国およびスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインで、国営の医療サービスを受けることができる。
イギリス人にとっても、移行期間中は有効だ。
4. 移動・就業の自由
移行期間中はEU域内の人の自由な行き来が引き続き適用されるため、イギリス人は現在と同じようにEU加盟国に住んだり、そこで働くことができる。
イギリスに住み、働きたいEU市民も同様だ。
5. 年金
EU在住のイギリス人は、引き続き国民年金を受け取れる。毎年の増額も保証される。
6. EU予算への拠出
イギリスは移行期間中、EU予算への拠出を続ける。つまり、EUから資金援助を受けているプログラムには、引き続き資金が提供される。
7. 貿易
英・EU間の貿易には移行期間中、新たな関税や物品検査は導入されない。