
2020年01月31日 15:30 公開
サー・ジョン・カーティス、英ストラスクライド大学教授(政治学)
昨年12月の総選挙で与党・保守党が圧勝したのを受けて、イギリスは欧州連合(EU)を離脱する。
しかし、現時点で国民はブレグジット(イギリスのEU離脱)についてどう思っているのか。移民や経済にどう影響するべきだと考えているのか。
有権者の大半は今ではブレグジットを支持するのか
選挙では保守党が勝ったものの、選挙期間中の世論調査は(過去2年間と同様)、EU残留を支持する人たちがわずかながらも一貫して多数を占めるという結果を出していた。
選挙直前の6つの世論調査結果を平均すると、残留派は有権者の53%、離脱派は47%だった。各種世論調査は、残留派の88%と離脱派の86%、つまりほとんどの人が2016年の国民投票と同じように投票するだろうという結果だった。ただし、2016年に投票しなかった人は53%が残留を支持していた(離脱派は26%)。
総選挙後に調査会社BMGリサーチが行った世論調査では、残留派が52%、離脱派が48%という結果で、選挙後も有権者の意見は大きく変わっていない様子がうかがえる。
残留派の方が多いとは言えその差は小さすぎるため、有権者の大半がブレグジットを望んでいないとは断定できない。しかし、イギリスはブレグジットについてほぼ半々に割れているのだというのは、各種のデータから確かに言える。
移民と経済
2016年の国民投票で特に重要なテーマだったのが、移民と経済だ。どちらについても、ブレグジットがどう影響するか、残留派と離脱派の意見は今なお大きく食い違っている。
社会問題の研究団体NatCenによると、全有権者の38%が移民の入国は減ると考えていた。EU離脱後に移民はむしろ増えると考える有権者は、7%だけだった。
その一方で、離脱に投票した人の46%が移民は減ると考えているのに対して、同じ意見の残留派は34%に過ぎなかった。
この数字は国民投票後もそれほど変わっていない。
対照的に、EU離脱による経済への影響についての意見は変化した。国民投票から約3カ月後の2016年9月の調査では、ブレグジットで経済は悪化すると答えた人は45%、改善すると答えた人は30%だった。
これに対して、NatCenが昨年の選挙戦中に実施した世論調査では、ブレグジットで経済は悪化すると答えた人は56%と半数を超えた。経済は良くなると答えた人は21%に減っていた。
ただし、離脱に投票した人の間では46%が景気改善を期待している。悪化すると見る人は21%に留まる。対照的に、残留派の実に84%が、経済は悪化すると考えている。
イギリスで暮らして働けるのは誰
EUとの今後の関係をイギリスがこれから交渉していく中でも、移民と経済は大きな課題だ。どういう移民ルールを望むのかイギリスは決めなくてはならないし、EUとの商取引について従来のルールから何を変更したいのか決めなくては鳴らない。
移民問題へ懸念は過去3年の間で後退している。しかし、EU域内の誰でもイギリスで働けるがEU外の人は就労許可を申請しなくてはならないというこれまでの決まりについては、ほとんどの有権者が否定的だ。
選挙期間中、有権者の58%がNatCenに対して、EU域内の市民もイギリスで生活し働くには申請し許可を得るようにすべきだと答えた。それに反対する人は22%に留まった。
残留派の人の間でも、47%がこれに賛成した。
EU域内の移動の自由をイギリス政府がなぜ終わらせようとしているのかは、こうした数字からも理解できる。
企業のルールは変更すべきか
ほとんどの有権者は、今後もEUと緊密な経済関係を維持したいと思っているようだ。
NatCenの調査では、「イギリスの企業がモノやサービスをEUで自由に販売できるのと引き換えに、EU域内を拠点とする企業も、イギリス国内でモノやサービスを自由に販売できるようにすべき」だと、86%が賛同している。
これを実現するには、イギリス国内での製造・販売に対する規制は、EUでの規制にかなり近いものではならないはずだ。
有権者は、イギリスの消費者のためになると思えるルールについては、EU規則の維持に必ずしも反対ではない。
たとえば、外国での携帯電話料金の規制について、有権者の72%はイギリス企業がEU規則に従うことを望んでいることが、NatCen調査で明らかになった。
同様に、民間旅客機の大幅遅延について乗客への補償金支払いを航空会社に命じるEU規則には、イギリスの航空各社も引き続き従うべきだと78%が答えた。
イギリス政府はEU離脱後、様々な物事を自由に決めようとするだろう。しかし、留意しておくべきことがある。有権者は色々なことについて、特に自分たちの消費者としての権利については、今までどおりで良いと思っているかもしれないのだ。
<この記事について>
この記事は、BBC外の専門家にニュース解説の寄稿を依頼したものです。
本稿の内容のもととなった研究の詳細はこちらで見ることができます。
サー・ジョン・カーティスは英ストラスクライド大学の政治学教授で、独立調査機関・全国社会調査センターならびに独立調査機関「The UK in a Changing Europe」の上級フェロー。