そこで、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行による中国や世界経済の影響と比べてみよう。今回は02年よりも国内景気が悪い中国の経済状況下で、「世界の工場」だけでなく世界の物流や消費の一中心地になったことで、世界経済における位置も変化している。この状況を勘案すれば、SARSのときの国内外に与える影響を各段に上回るものと予想できる。

 03年のSARSの経済的な影響については、高麗(こうらい)大の李鍾和(イ・ジョンファ)教授とオーストラリア国立大のワーウィック・マッキビン教授の論文「SARSからの教訓:次なるアウトブレイクに備えて」が有益である。両氏の論文では、SARSショックは、中国経済の成長率を1・1%引き下げ、香港に至っては約2・5%も引き下げた。

 ただし、世界経済への影響は軽微であり、米国は0・1%ほどの引き下げ効果しかなかった。両氏の論文には特に日本への言及はないが、03年の日本経済は、世界経済ともSARSショックとも無縁な形とはいえ、デフレ不況の中で「格闘」中であった。

 2月1日の夕刊フジでもコメントしたように、「現在の中国は世界の生産の主体であると同時に、世界の消費者としての地位を築き、ビジネスでも多数の人が動くようになった」。そもそも03年、中国の経済規模は世界第6位程度であり、GDPでは日本より小さかった。

 だが、今日では、世界第2位の経済規模であり、貿易関係一つとっても各段に異なる。03年当時の中国の貿易総額は1兆ドルに満たなかったが、2018年には、約4兆6千億ドル超にも達している。

 中国からの落ち込みによる外国人観光客(インバウンド)消費の減少に加え、貿易を通じた悪影響が、日本を含め世界各国で懸念されるだろう。観光立国であるタイでは、既に、深刻な観光不況がささやかれ始めている。

 さらに、中国の国内消費や生産の落ち込みが早くも出ているところがある。典型例として、中国の石油需要が消費全体の20%に相当する日量300万バレル程度減少したと報じられている。複数の市場関係者の推測では、やはり新型コロナウイルスのよる影響だという。

 この報道を受けて、原油先物価格が一時低下した。仮に中国の石油などのエネルギー需要低下が持続すれば、原油価格に依存している新興国経済にとっては極めて重要なリスク要因だろう。
重症急性呼吸器症候群(SARS)の集団感染が発生し、封鎖された北京市内の工事現場。中に民工が隔離されたままで、昼どきには大量の弁当が運びこまれていた=2003年5月
重症急性呼吸器症候群(SARS)の集団感染が発生し、封鎖された北京市内の工事現場。中に民工が隔離されたままで、昼どきには大量の弁当が運びこまれていた=2003年5月
 このような中国発の経済リスクを嫌って、「中国離れ」も加速化するかもしれない。米国のロス商務長官はテレビのインタビューで、中国に依存した世界の供給網(サプライチェーン)の見直しが行われる機会になるかもしれないと発言した。

 実際に、SARSショックから十数年で、同規模かそれ以上の経済・安全保障上のリスクが中国から発生しているわけである。これは各国の対中長期投資に関して、少なくとも再考を促す機会になることは間違いない。