2020年02月07日 12:44 公開

アンソニー・ザーカー、BBC北米担当記者

アメリカのドナルド・トランプ大統領が、弾劾裁判で無罪評決を受けた。今年の大統領選挙に、どう影響し得るのか。

議会下院の全議員、上院の3分の1以上、そして大統領を選ぶ国政選挙まで残り9カ月となった。共和、民主両党とも、政治的ながれきの中を次の段階に進もうとしている。

世論調査によれば、国内の政治傾向は、弾劾手続きが始まる前の状況とほとんど同じだ。アメリカは政党の主張に沿って真っ二つに分断している。

大統領の支持率は40%台前半で推移している。これはトランプ氏の就任からずっと、ほぼ変わっていない。彼の再選は不確実だが、確率が低いわけではまったくない。

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弾劾裁判での証人召喚(世論調査では国民が圧倒的に求めていたとされる)をしないという決定は、そのうち忘れ去られるかもしれない。結局のところ、民主、共和両党の議員は、「証人」が何を意味するかについて、見解が大きく違っていた。

民主党側は、大統領に対する告発を裏付け得るとして、ジョン・ボルトン氏やミック・マルヴェイニー氏ら政権幹部の話を聞きたいとしていた。

一方、共和党側は、ジョー・バイデン氏の息子ハンターや、弾劾手続きの急先鋒だったアダム・シフ氏、内部告発者を呼び出そうとした。そして、すべてを終わらせたいと思っていた。

一連の弾劾手続きは、現在のアメリカの政治傾向を変えなかった。むしろ、政治傾向に絡め取られた。

ただ、世論調査がすべてを明らかにしているわけではない。弾劾手続きが影響を及ぼした形跡も存在する。

共和党支持層が活気づいた

アイオワ州デモインで1月30日夜に開かれた集会では、会場のバスケットボールアリーナいっぱいの共和党支持者たちが、トランプ氏が改めて弾劾を「でっち上げ」とこき下ろすのを目にした。

トランプ氏は、過去の弾劾手続(1868年のアンドリュー・ジョンソン、1973年のリチャード・ニクソン、1999年のビル・クリントンの各大統領)を米国史における「暗い時代」と位置づけた一方、自らの大統領の任期は「幸せな」ものだとした。

声援を送る観衆は、同意しているようだった。

「民主党のおかげで彼は再選されると思う」と、デモイン市民のトレイシー・ルートさんは話した。集会には息子トニーと参加した。「民主党は彼を世論調査で負かすことができなかったから、弾劾するしかなかった」。

ミネソタ州から車で4時間かけて集会に来たサラ・ジョンソンさんは、弾劾裁判を最初から最後まで見たとし、大統領を有罪にしようとした民主党の努力を「愉快だった」と述べた。

そして、国民は「いかに制度が腐敗しているか」を見たため、どちらかと言えばトランプ氏にとってよかったと付け加えた。


トランプ政権の現時点における政治戦略は、はっきりしている。今回の弾劾を、ワシントンのエリート層が初めからトランプ氏(と支持者)を追い落とそうとした策略の一例だと印象づけるというものだ。

「彼らは私を狙っているのではない、あなたを狙っている」と、トランプ氏は昨年12月にツイートした。「私はその途中で邪魔になっているだけだ」

トランプ氏の選挙運動が、11月の本選で支持層を集結させること(ブラッド・パースカル選挙対策委員長が言う「米国史上最大の草の根運動」)を計画しているとしたら、どうなるか。

今回の下院民主党による弾劾決議と、その後の上院共和党による無罪評決は、共和党員の耳に音楽のように響くことだろう。

民主党支持層は内省した

下院の弾劾調査が始まるまでの数カ月間、民主党は大きな疑問を抱えていた。

それは、ナンシー・ペロシ下院議長やアダム・シフ情報委員長ら下院のリーダーたちが、党内の声に抵抗し続けると、トランプ氏との戦いを求める支持者たちの気持ちが離れてしまうだろうか、というものだった。

最終的には、せかした民主党議員らが望みどおり、弾劾決議を実現させ、大統領に汚点をつけた。結末は、望んだものとは違ったかもしれないが。

エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)は、トランプ氏の弾劾を求めた最初の有力民主党議員の1人だった。デモインで先月31日夜に開かれた、彼女の支持者を組織化するためのイベントでは、多くの参加者がすでに11月を見据えていた。

「大統領選は再び国を二分するだろうが、真実を求め続けることが民主党の勝利に貢献すると思いたい」と、アイオワ州アーバンデイルの教師レイチェル・スミスさんは話した。

「中道寄りの人や、必ずしもどちらに投票するか決めていない人にとって、今回のことが民主党に傾くきっかけになるかもしれない」

スミスさんの夫ジャスティンさんは、結果は残念だったが、下院が弾劾決議をしたのは喜ばしいことだったと述べた。また、トランプ氏がしたとされる不正行為が広く知られたのは、努力に値したと話した。

「一線を越えたとメッセージを送るのは必要なことだった」とジャスティンさんは言った。彼はトランプ氏のウクライナ疑惑が公になるまで、弾劾には賛成していなかったと述べた。

ともかくも現時点では、民主党員たちは今回の結果について満足しなくてはならないだろう。夫妻の意見は、そう一致した。

バイデン氏には痛手?

バイデン氏がウクライナで不正に関わったことを示す証拠はない。しかし政治においては、そうした技術的なことは必ずしも大事ではない。本当かどうかに関係なく、痛手になるときは痛手になる。

弾劾裁判の冒頭では、トランプ氏弁護団のパム・ボンディ元フロリダ州検察長官が、痛手を与えようと最大限の努力をした。

彼女は主張のなかで、まるで検察官のように、ハンター・バイデン氏と父親であるジョー・バイデン前副大統領に関する疑惑を並べたのだ。

ボンディ氏は、ウクライナのエネルギー企業ブリスマについて、アメリカの政策に影響を及ぼそうとして、ハンター氏を役員に迎えたと述べた。彼女はまた、バイデン氏に対し、オバマ政権のウクライナ政策の責任者として、息子を捜査から守るのに役立つことをしたのではないかと問いただした。

そして、そうした疑いがあるだけで、トランプ氏がウクライナ政府にバイデン親子について調べるよう要請した判断は、正当化されると主張した。

ボンディ氏はさらに、「我々が言いたいのは、これについて話し、問題視したのは根拠があったわけで、それで十分だということだ」と話した。


弾劾調査そのもの(そしてバイデン氏が関連づけられたこと)は、バイデン氏の大統領を目指す選挙運動に、マイナスの影響を及ぼすのに十分かもしれない。ウクライナに捜査させようとしたトランプ氏の試みが、最終的に失敗したとしてもだ。

ボンディ氏の陳述が終わると、共和党のジョディ・アーンスト上院議員(アイオワ州)はほとんど興奮状態だった。そして、バイデン氏の大統領の座への野望は打撃を受けたかもしれないと、記者たちに示唆した。

「今日の討論が、アイオワ州党員集会の有権者たち、民主党の党員集会参加者たちに何を伝え、どう影響するか本当に興味深い」とアーンスト氏は言った。「彼らはいまでもバイデン前副大統領を支持するだろうか? 確実なことは言えない」

まだアイオワ州のすべての結果が集計されていないが、バイデン氏は今のところ4位と出遅れ、失望を買っている。

バイデン氏は、自らの政治的可能性にダメージを与えようとする共和党の思惑を、強みに変えようとした。先週には、アーンスト氏とトランプ氏について、「私が民主党候補になることを死ぬほど恐れている」とツイートした。

だが10月の世論調査によれば、民主党員の40%と、共和党員と無党派層のほとんどが、ハンター・バイデン氏のウクライナでのやりとりは、選挙運動で取り上げる問題点として正当だと考えている

僅差の争いとなっている民主党の候補者争いと、僅差となるであろう秋の国政選挙では、疑惑の影すら局面を変え得る。

いまの地位を保つ

今回の無罪評決が2020年大統領選の運動にどう影響するのかを占うには、何人かの共和党上院議員に着目するのが最もいい方法かもしれない。再選を目指す11月の選挙で厳しい戦いが予想される議員は全員、最終的にはトランプ氏のためになる票を投じた。

民主党寄りの州か、両党が張り合っている州を地盤とする共和党上院議員は、造反するかもしれないとの観測が流れていた。トランプ氏を無罪にした場合の政治的ダメージが大き過ぎると考えられるからだ。

コーリー・ガードナー氏(コロラド州)、マーサ・マクサリー氏(アリゾナ州)、スーザン・コリンズ氏(メイン州)などの上院議員がそうだった。しかし、この3人のうち2人は結局、証人の召喚にさえ賛成しなかった。

今年が再選期ではないミット・ロムニー上院議員(ユタ州)は、トランプ氏に背いた唯一人の共和党議員だった。ロムニー氏は、第1の弾劾条項だった権力乱用について、トランプ氏に有罪票を投じた。


一方、今年の選挙で再選が危ういとされる民主党のダグ・ジョーンズ上院議員(アラバマ州)も注目されたが、有罪票を投じた。

職業生活が危うい状況にある政治家が造反しなかったとしたら、何も変わっていないとわかっているからかもしれない。深く分断された国では、党に忠実な人々を怒らせるリスクは、何としても避けたいものとなる。

終わりではない

上院におけるトランプ氏の弾劾裁判は、予想通りの結末を迎えたかもしれない。しかし、1つの章の終わりは、トランプ氏のウクライナに絡む頭痛という書物の終わりではない。

ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、上院で証言を求められることはないだろう。しかし、トランプ氏がどのようにウクライナに圧力をかけ、バイデン氏の捜査を開始させようとしたのか、ボルトン氏の説明は表に出始めたばかりだ。

ボルトン氏の回顧録が予定通り出版されるか、彼が公に話をすることを選べば、すっかり明らかになるかもしれない。下院民主党は、ボルトン氏の証人召喚をするかもしれないとしている。そうなれば、民主党が前回は避けた過酷な法廷闘争が始まるかもしれない。

下院は、トランプ氏の前首席補佐官別のジョン・ケリー氏など、別の人を証人として呼び出すと決める可能性もある。ケリー氏は最近、ボルトン氏の主張を支持する声明を出している。

コラムニストのジョナサン・オルター氏は、弾劾裁判が終結した後の証人のほうが、現実には民主党をずっと助けることになるかもしれないとしている。

「ボルトン氏が下院で証言すれば、一大イベントになる。もし上院で証人として呼ばれていたら、免責という手段で封じられていただろう。労働者の日(9月の第1月曜日)までずっと、トランプ氏のたくらみがニュースになる」とオルター氏は書いている。

それは希望的観測で終わるかもしれない。しかし歴史が教えてくれるのは、次なる新事実がいつどこで出るのか予測不可能ということだ。その未知なるものは、トランプ氏と共和党議員らにとって、胸焼けを引き起こすのに十分過ぎるかもしれない。

(英語記事 What Trump acquittal means for 2020 election