2020年02月12日 13:34 公開

スイスの暗号機器メーカーをアメリカとドイツの情報機関が長年ひそかに所有し、このメーカーの機器を使用した国々の機密通信を秘密裏に入手していたと、欧米メディアが11日報じた。

スイスにあるクリプトは、冷戦時代から2000年代まで120カ国以上に暗号機器を供給した。

米中央情報局(CIA)と独連邦情報局(BND)で働くスパイらは、同社の機器に仕掛けを施し、各国の暗号を解読していたとされる。対象国には、イラン、インド、パキスタンなどが含まれるという。

米紙ワシントンポスト、ドイツ放送局ZDF、スイス放送局SRFの3社は、CIAが「世紀の情報クーデーター」と呼んでいた、過去の作戦に関する内部機密情報を入手したとしている。

「金を払い秘密を読まれていた」

1980年代、米情報職員が扱った外国の通信の約4割がクリプトの機器で暗号化されていた。

同社は莫大な利益をあげ、それらはCIAとBNDに流れた。

CIAは「世紀の情報クーデーター」作戦について、「外国政府はアメリカと西ドイツに相当な金を払いながら、自らの極秘通信を少なくとも2つ(多くておそらく5つか6つ)の他国に読まれていた」と報告書に記していた。

ワシントンポストによると、アメリカはこの作戦により、イラン米大使館人質事件(1979年)の際、イラン当局の動きを監視することができた。また、フォークランド紛争(1982年)では、アルゼンチン軍の機密情報をイギリスに提供したという。

一方、ロシアと中国はクリプトの暗号機器を信用せず、使わなかった。

2018年にクリプトの一部を投資家が買収した後に設立された、スイスのクリプト・インターナショナルは、「CIAともBNDとも無関係」と表明。報道を受けて非常に困惑しているとした。

スイス政府は、昨年11月に今回の件について通報を受けたと説明。調査担当者として元連邦裁判官を指名したと述べた。

クリプトの暗号機とは?

クリプトの暗号機器は、ロシア人発明家のボリス・ハーゲリン氏がつくった小型暗号機が起源。同氏はこの小型機を、1940年代にナチス・ドイツの占領下にあったノルウェーからアメリカに渡った際につくった。

戦地で使える小ささが支持され、米軍に約14万台を納入した。


第2次世界大戦が終わると、ハーゲリン氏はスイスに移った。

同氏の機器の進化は目覚しく、他国に対するスパイ活動ができなくなってしてしまうと、米政府が懸念したほどだった。

アメリカの暗号解読の専門家ウィリアム・フリードマン氏は、ハーゲリン氏を説得。最新技術の機器は、アメリカが認めた国だけに販売されるようにした。

それ以外の国々には、CIAが情報を入手できる、古いモデルが販売された。

1970年代になると、アメリカとドイツがクリプトを買収。採用や技術開発、販売方針など、ほぼすべての企業活動を管理した。

暗号機器に細工を施す諜報(ちょうほう)活動については、疑惑が長年あったが、これまで証明されたことはなかった。


<解説>スイスに広がる苦悩――BBCイモージェン・フォルクス記者(ジュネーヴ)

スイス中に苦悶(くもん)のうめき声が広がっている。

「私たちの評判はずたずたになった」とある政治ジャーナリストは嘆く。「私たちの中立性は欺まんだ」と別の人は書く。

実際には、クリプト社の怪しい行為は何年もの間、うわさされていた。同社のスイス人社員らは、何らかの不正を疑っていた。

スイス政府はずっと知っていた。同国政府は、CIAが細工していないクリプトの機器の供給を受けていた数少ない政府の1つだった。だが、面目を失う事態が世界的なメディアによって報じられ、痛みを感じている。

今回の件は、スイスが払しょくに努めていた「スイスは正当な支払いを受ければ何でもする」というイメージを想起させる。

スイスの銀行はかつて、独裁者たちが収奪した巨額の金を取り扱っていた。巨大な規模の脱税にも目をつぶっていた。

それは過去の遺物のはずだった。しかし今回、スイス自慢の精密機器の分野も、お粗末なものとみられている。

CIAがクリプトを利用したのは、まさにスイスの中立性と品質の定評が理由だった。世界中の政府関係者は、そうした定評があるがゆえに、同社の機器を購入するだろうと考えた。

スイスは金を手にし、問題のある機器を販売した。そしていま、皆が知ることとなった。

(英語記事 Code machines 'spied on governments for decades'