日中「実務者協議」は開かれたが


 石垣市は毎年1月14日を「尖閣諸島開拓の日」と定め、毎年、この日に盛大な式典を開催している。今年、式典に参加した国会議員は民主党の渡辺周衆院議員、次世代の党の浜田和幸参院議員のみで、政権与党の自民、公明の国会議員はゼロ。例年に比べ、来賓席はガラガラだった。昨年、安倍晋三首相のメッセージを寄せた自民党は、今年は田中和徳組織運動本部長の祝電のみだった。

 市は各政党の代表や沖縄関係の国会議員らに招待状を送ったが、沖縄の国会議員は12人全員が欠席した。自民党議員は祝電を寄せたが、野党議員からは何の反応もなかった。市によると県選出国会議員からは「予算編成作業が大詰めのため出席できない」と連絡があったという。

 尖閣問題に対する国の熱意が薄れているという見方もできる。式典直前の1月12日、日中は尖閣周辺などの海上で不測の事態を避けるため「海上連絡メカニズム」構築に向けた実務者協議を2年ぶりに東京で開いていた。

 日中ともに尖閣問題をヒートアップさせたくない微妙な時期だったのだろう。式典に安倍首相のメッセージを送らず、要人も参加させなかった自民党の判断は、恐らく日中関係への配慮である。尖閣周辺を航行していた中国公船「海警」も、日中協議前日の11日にいったん、周辺海域を去った。ただし海警は、日中協議が終わると尖閣海域に再び舞い戻っている。

 それにしても、式典に参加した自民党議員がゼロだったのは納得できない。さらに問題なのは、石垣市と並んで尖閣問題の当事者であるはずの県の態度だ。

 県知事は仲井真弘多前知事の時代から一度も出席していない。翁長雄志知事は上京中で多忙だったようだが、式典に代理で派遣したのは2人いる副知事でも部長でもなく、地元の出先機関職員という低いレベルだった。翁長氏が知事選で連呼していた尖閣問題の「平和的解決」の性格が見えるようである。

 石垣市の中山義隆市長は尖閣の地元として、可能なことは全力で取り組む姿勢は見せている。その一つが県の交付金を活用した「尖閣ジオラマ(立体模型)」の製作である。
 尖閣は南小島、北小島、魚釣島、久場島、大正島と3つの岩礁から成るが、石垣市民でも島々がどのような形で並んでいるか知らない人は多い。ジオラマで尖閣をより身近に感じてもらおうという取り組みだ。
 縦、横それぞれ約2メートル。衛星写真などのデータを利用して製作され、上から異なる照明を当てることで、植物の分布、ヤギによる食害の状況なども確認できるという。

 ジオラマは開拓の日に合わせて公開・展示されたが、現在は図書館の一角に眠っている。警備の問題もあるが、空港や港湾など大勢の観光客の目につく場所で展示するのも一策だろう。将来的には「尖閣資料館」が整備され、ジオラマを含めさまざまな資料が一元的に管理され、情報発信される体制が整うことが望ましい。一自治体の財政では困難なので、尖閣防衛に向けた政策の一環として政府の支援が求められる。

 昨年12月30日付朝日新聞によると、中国の軍艦や公船は習近平国家主席の直属組織のもとにあり、組織のメンバーが無線やテレビ電話を使って現場に指示を出すこともあるという。日中協議の際の尖閣海域を見ても分かるように、中国公船の動きが、政府上層部の意向を直接的に反映しているのは間違いない。

 その意味で現在、「海警」が発しているメッセージは、明確に「中国は尖閣をあきらめない」という一言に尽きる。尖閣周辺で常時航行する体制は全く崩しておらず、領海侵犯も頻発しているからだ。

 石垣市の尖閣ジオラマ製作では、当初は航空機をチャーターして上空から各島を撮影する計画もあった。だが、中国が尖閣上空に一方的に防空識別圏を設定したことを受け、政府が市に飛行自粛を促し、市は不測の事態を回避するため撮影を断念した経緯がある。日本領でありながら、尖閣は普通の日本人が上陸することができないばかりか、政府から上空を通過することも止められる場所になってしまっているのだ。

 尖閣問題に関する中国マスコミのプロパガンダは最近、減少しているようだが、中国は9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に戦後70年の記念行事として軍事パレードを予定しているという。この日に向けてボルテージを上げ、尖閣で攻勢に出てくる可能性はある。石垣市民にとって気の抜けない日が続く。

なかあらしろ・まこと 昭和48(1973)年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、平成11(1999)年に石垣島を拠点とする地方紙「八重山日報」に入社、22年から同紙編集長。イデオロギー色の強い報道が支配的な沖縄のメディアにあって、現場主義と中立を貫く同紙の取材・報道姿勢は際立っている。著書に『国境の島の「反日」教科書キャンペーン』(産経新聞出版)。

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