今村浩(早稲田大社会科学総合学術院教授) 

 今年のアメリカ大統領選挙最大の不確定要因は、何と言っても「民主党の候補者が誰になるのか」ということであろう。対決の構図が全く描けないのでは、予想も何もできはしない。その意味で、初戦となるアイオワ州の支持者集会を注視していた。ところが思わぬ展開というか開票の失態で、肝心の候補者の勝敗よりも、アイオワ州の支持者集会自体に疑問が呈されることになったのは御承知の通りである。

 とりわけ、何と言っても、3年にもわたって2016年選挙の正当性に疑問を言い立ててきた民主党が、自身の設計した制度でつまずいて、その信頼性を損なってしまった、俗に言えば「コケて」しまったのだから、民主党に好意的でない向きにはこたえられない展開となった。

 やれ、「(ローマ教皇選出のための中世以来の)コンクラーベですら、煙の色で結果を知らせられるというのに」だの、「民主党の投開票管理能力は、古代アテネにも及ばない」だの、揚げ句は「ニューハンプシャー州予備選挙について、民主政治にとって朗報だったのは同州が票の集計の仕方を分かっていたことだ」とか、もういいように言われている。ついには哀れ、アイオワ州民主党委員会委員長が辞職に追い込まれた。

 アイオワ州が先陣を切る特権が正当か、そもそも支持者集会という形式が適切なのかということは、確かに重大な問題ではあろう。しかし、アイオワとニューハンプシャーという、失礼ながら、取るに足りぬ小州が、かくも大きな影響を及ぼすのは公正なことなのかという疑問は、実は4年ごとに提起されてきた。

 長らく大統領選挙を見続けている身には、正直「あぁ、またか」という感想しかわかない。確かに、両州とも人種の多様性に乏しく、アメリカ全体を代表する州とは言えないだろう。しかし、ではどの州ならアメリカの縮図と言えるのか? 実は、そんな州はありはしない。結局こうした議論は、アメリカ全土で同じ日に予備選を実施するのが公正だということに落ち着く。それはまた別の問題を孕(はら)むから、ここでは、これ以上は触れない。

 アイオワ州とニューハンプシャー州の結果を手短に論評しておこう。現時点(2月16日)のアイオワでの全票開票確定とされる得票率は以下の図を参照されたい(ただし、アイオワの結果には再集計の申し立てがなされており、結果はまだ変動するかもしれない。しかし、大幅には変わるまい)。
数字はReal Clear Politicsより引用。図:編集部作成
数字はReal Clear Politicsより引用。図:編集部作成
 何と言っても、穏健中道派の敗者はジョー・バイデン氏、急進左派の敗者はエリザベス・ウォーレン氏であると言える。バイデン氏の場合、とにかく過去にアイオワ州で4位になって指名を得た者はいないのだから、縁起が良くないことこの上ない。実は、支持者集会というやり方は、圧倒的多数でなくとも、熱心な支持者を持つ候補者に有利であり、バイデン氏のような、強烈な個性を持たない、よく言えばマイルドな、悪く言えば退屈な候補者には、そもそも向かないとは言える。

 しかし、ニューハンプシャー州は予備選であり、そんな言い訳はきかない。しかも得票率で伏兵エイミー・クロブシャー氏の半分にも及ばぬ、主要候補者中、事実上の最下位となった。ここまで下位に甘んじるとは予想外と言ってよかろう。ウォーレン氏も南隣のマサチューセッツ出身という地の利を生かせず、クロブシャー氏にも大きく差をつけられた。同じく急進左派のサンダース氏に、完敗したと言ってよい。

 一方、アイオワ州では、得票率で僅差(誤差の範囲とも言える)であれ首位に立ったピート・ブティジェッジ氏は、0・1ポイント差で後塵(こうじん)を拝したバーニー・サンダース氏と並ぶ紛れもない勝者であろう。さらに、ニューハンプシャー州では隣接州の出身であるサンダース氏にわずかに後れを取るだけの2位につけ、同じ数の代議員を確保した。ただし、全国支持調査の平均(2月16日時点)では、23・6%で首位のサンダース氏に対して10・6%のブティジェッジ氏は大差をつけられている。