インバウンド消費も直接面だけを見るのは妥当ではない。五輪などの一時的な観光客増を嫌って、人々が他国や地域に観光に出掛けるかもしれないし、違う形態の消費におカネを使うかもしれない。つまり、混雑効果を考慮しなくてはいけなくなる。

 ある実証研究では、五輪の経済効果は、開催国の国際的な信頼性を上昇させることで輸出が増加する効果として現れるという。他方で、五輪などのビッグイベント自体の経済効果よりも、金融政策などのコントロールがうまくいっている方が重要だ、という実証もある。

 仮に、高橋氏の悲観シナリオが不幸にして成立してしまえば、日本の「国際的信頼」は毀損(きそん)され、輸出にも影響を及ぼすかもしれない。他方で、増加が見込まれるインバウンド消費や五輪を当て込んだ国内消費や投資などは大幅に失われる。

 今回の新型コロナウイルス問題以前に提起されていた東京五輪による経済効果の各種推計を読み解くと、既に2020年は各種インフラ整備への支出はほぼ終わっているため、キャンセル効果は大きくない。インバウンド消費が3~4兆円、国内消費も1兆円程度が失われる。

 ただ、本当に「失われる」かどうかは分からない。先ほど簡単に例示したが、五輪の混雑を忌避する観光客の消費増が国内外から発生するかもしれない。もっとも、これも新型コロナウイルスの風評被害がゼロであるという前提に立っている。

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないことで、五輪が中止になれば、日本の「国際的な信頼」が毀損されるだろう。「観光立国」というブランド(があるとして)も大きく低下するかもしれない。

 いずれにせよ、上述の悲観シナリオの当否は取りあえず別にしても、「景気下降局面」プラス「消費増税」プラス「新型コロナウイルス」の「三重苦」に対応する経済政策が必要になる。現在の国会で審議されている補正予算だけでは不十分だ。
都庁で行われた記者会見で新型肺炎の東京五輪に対する影響について説明する東京都の小池百合子知事=2020年1月31日
都庁で行われた記者会見で新型肺炎の東京五輪に対する影響について説明する東京都の小池百合子知事=2020年1月31日
 では、どのくらいの規模が必要だろうか。現在、審議中の補正予算案は4兆3千億円程度でしかない。これではおそらく「三重苦」の「景気下降局面」プラス「消費増税」、二つの悪影響の、それも3分の2程度しか打ち消すことができないだろう。

 やや粗い計算になるが、公表されている日本銀行の需給ギャップ(国内総生産=GDP=ギャップ)推計を利用してみよう。

 日本経済の潜在GDP(資本や労働が完全利用されている水準のGDP)と約530兆円ある現実のGDPとの開きは、2019年の第3四半期でプラス1・02%と3四半期連続で悪化していた。この状況に「消費増税ショック」がのしかかるが、14年の増税並みと仮定すると、日銀推計のGDPギャップはおそらくマイナス域に限りなく接近するか、場合によっては小幅マイナスになるだろう。