重村智計(東京通信大教授)

 韓国で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が拡大している。政府批判の高まりを受け、政局も不透明さを増している。

 このままでは、4月に行われる総選挙で、与党「共に民主党」は第1党の地位を失い、文在寅(ムン・ジェイン)政権がレームダック(死に体)化しかねない。韓国社会と政界混乱の背景には、日本人には分からない宗教事情と地域対立、そして政治文化が隠されている。

 「天変地異は支配者に徳がないからだ」と受け止めるのが韓国の儒教的価値観だ。近代化によって相当変化していても、庶民の素朴な感情は変わらない。

 この価値観も相まって、政府の対策遅れと中国への「忖度(そんたく)」が批判を呼んでいる。皮肉なことに、日本の対応を評価する声まで出ていたが、日本政府が韓国からの入国を抑制するため、9日から発給済み査証(ビザ)の効力停止を発表したことで、状況が変わりそうだ。

 2月25日、文在寅大統領が感染源とされる新興宗教団体「新天地イエス教会」や、病院のある南東部の大邱(テグ)市を突然訪問した。大邱は元々朴槿恵(パク・クネ)前大統領の地盤で、父の故朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領を絶対的に支持する保守派の拠点であるため、「反文感情」の強い地域とされる。それゆえ、何もしなければ「見捨てた」「差別だ」とすぐに批判される。

 大邱を「封鎖する」と発言した与党報道官が、たちまちクビになったことでもお分かりだろう。先述のように、大邱のある慶尚北道(キョンサンプクト)は、文大統領に反発する保守派の支持者が占めている。報道官の発言は、慶尚道と対立する全羅道(チョルラド)勢力と左派の陰謀だ、と受け取られるからだ。

2019年9月、ソウルで開かれた保守派の集会で横断幕を掲げる男性。幕には朴槿恵前大統領(右)や父親の朴正熙元大統領(左)が描かれている(共同)
2019年9月、ソウルで開かれた保守派の集会で
横断幕を掲げる男性。幕には朴槿恵前大統領(右)や
父親の朴正熙元大統領(左)が描かれている(共同)
 韓国では、朴父娘や盧泰愚(ノ・テウ)元大統領を輩出した慶尚北道と、左派勢力の地盤とされ、故金大中(キム・デジュン)元大統領の出身地の全羅道の対立が今も続く。左派勢力にとっては、慶尚北道という「保守の牙城」を崩さなければ、4月の総選挙と2022年の次期大統領選を優位に進めることは難しい。その思惑もあってか、文大統領は大邱を訪問したが、かえって「遅すぎる」との批判も出ている。

 韓国での新型コロナウイルス感染は主に「新天地教会」の教会に通う信者の間で拡大している。教会は中国の武漢市で伝道していたことを明らかにしている。

 韓国の報道によると、この教会は、教祖が「キリストの生まれ変わり」を自称し、多くの信者を集めたという。「新天地教会」も日本で知られる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)も韓国の正統キリスト教界からは異端の存在だ。