権力集中に功罪があることは言うまでもない。だがその前に、独裁の強化を批判する人たちはまず、胡錦濤時代、権力の分散によって腐敗が深刻化し、党指導部内のクーデターさえ計画されていたことに思いを致す必要がある。

 当時、領土問題で日中関係が極度に悪化した背景にも、こうした熾烈(しれつ)な政治闘争があったことは衆目が一致している。前政権に対する反省から、習氏による権力の掌握、集中がスタートしている。

 また、習氏のバックには、共産党政権の正統を担う革命二世代、いわゆる「紅二代」の支持があることも重要だ。両親たちの世代が築いた共産党政権が、内部の腐敗によって分裂、崩壊の窮地に追い込まれた、との危機感が共有されている。

 個々の政策について立場の違いはあるが、党の支配を堅持するという原則論では一致している。中国社会においては最も発言力のあるグループだ。

 中国の憲法改正によって、国家主席について任期2期10年の上限が取り払われたことは記憶に新しい。西側メディアには悪評高いが、権威の強化にとっては極めて大きな意味を持つ。

 「あと数年で引退」が自明となった途端、権力が空洞化し、綱紀が緩み始めることは、過去の反腐敗キャンペーンが示している。「独裁=悪」という単純な図式だけでは、中国政治の真相を正しく理解することはできない。

 もし、習近平政権が脆弱(ぜいじゃく)だったら、と想像してみるのも頭の体操にはよいだろう。あらゆる問題が政権内の政治闘争とリンクし、例えば、米中貿易摩擦は取り返しのつかない泥沼に入り込んでいたかもしれない。
2008年5月、共同文書に署名交換後、握手をする中国の胡錦濤国家主席(左)と福田首相=首相官邸
2008年5月、共同文書に署名交換後、握手をする中国の胡錦濤国家主席(左)と福田首相=首相官邸
 新型コロナウイルス感染の対策でもより大きな混乱が起きていた可能性がある。今回、日本からの支援が美談としてもてはやされたが、それもかき消され、公式訪日の相談をするどころではなかったに違いない。巨大な隣国の政情が不安定であれば、日本が大きな影響を受けるのは必至である。
 
 習近平政権の一連の対策や対応の中で、注目すべき点は2月13日、湖北省と武漢市のトップが同時に更迭された人事である。同日の党中央発表によれば、蒋超良・湖北省党委員会書記に代えて応勇・上海市長を、馬国強・武漢市党委書記の後任に王忠林・山東省済南市党委書記が就くことになった。応勇氏、王忠林氏ともに公安部門の経験が長い。