田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 3月3日、米連邦準備制度理事会(FRB)が緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利を0・5%引き下げた。緊急利下げの背景には、新型コロナウイルス(COVID-19)の経済への悪影響があったことは間違いない。

 ただ、私見では、FRBのパウエル議長は凡庸な政策当事者であり、自らの判断でこのような緊急利下げを採用したかは疑問である。おそらくトランプ大統領によるツイッターなどを利用した、FRBへの度重なる金融緩和要請といった政治圧力があることは間違いないだろう。

 ただし、この0・5%の利下げは、既に市場関係者の間では織り込まれていた。「緊急会合」という一種のサプライズ効果もあって、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は一時的に上昇したが、結局その後は一転して暴落した。

 結局、ダウ平均の終値は、前日比785・91ドル安の2万5917・41ドルだった。株価だけ考えれば、FRBの緊急利下げは強烈な市場からの返り撃ちにあったようである。

 ところで筆者は、ここ数日の世界経済の動向を分析していると、新型コロナウイルスの欧米への感染拡大を背景にして、従来の経済政策のルール(レジーム)が通用しなくなっているのではないかと思っている。つまり、先進7カ国(G7)をはじめとする主要国の政策当事者たち、国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの主要国際経済機関などが今まで抱いていた世界経済の「楽観シナリオ」が崩壊した可能性がある。

 そのため、楽観シナリオの微調整程度に考えていた「金融緩和」や「財政支出拡大」では、手に負えない事態に転じてしまっているのではないか、と懸念している。
2020年3月3日、緊急利下げについて記者会見するFRBのパウエル議長(共同)
2020年3月3日、緊急利下げについて記者会見するFRBのパウエル議長(共同)
 政策当事者が共通して抱いてきた楽観シナリオとは、次の図のような構図である。この図は、日本銀行の若田部昌澄(まさずみ)副総裁の講演に掲載されたものに、私が赤字で修正コメントを加えたものである。その若田部副総裁が、この「楽観シナリオ」に事実上強い懸念を表明していたことを強く注記しておく。
世界経済の製造業・非製造業のデカップリングからの変化(若田部(2020)を修正)
世界経済の製造業・非製造業のデカップリングからの変化(若田部(2020)を修正)
 楽観シナリオ上で、米中貿易問題などの貿易面での縮小やIT関連の在庫調整によって、製造業は減速していた。ただし、非製造業では、各国の金融緩和的スタンスなどが貢献することで、好調が継続していた。つまり、「製造業はダメだが、非製造業は良好」というデカップリング(分離)が顕著だった、というのが楽観シナリオにおける現状分析だ。