3年以内に2回違反で「講習会」


 これまで自転車のルール違反に関しては、いわゆる「赤切符」しか対処のしようがなかった。赤切符というのは、そのまま刑事処分であって、払うのは「罰金」。起訴されればもちろん前科となる。クルマの場合ならば、酒酔い運転など、一発免停レベルの悪質違反に適用されるものだ。

 ところが、そのクルマの違反については、駐車違反や軽微なスピード違反など「悪いには悪いけど、そこまでじゃないよ」という場合、いわゆる「青切符」が切られてきた。青切符の場合は、あくまで行政処分であり、払うのは「反則金」である。前科もつかない。この青切符制度が、自転車にはないわけだ。

 だから、自転車の場合「よほどの違反行為があり、なおかつ事故に結びついた」ということでもないかぎり、事実上、検挙は不可能だった。ここに何らかの制度を作ろう、というのが、今回の改正なのである。

 「このところ、エコ、健康志向の高まりからか、自転車が増えた」→「ところがその自転車乗りたちの無法ぶりが目にあまる」→「なんとか有効な“教育手段”はないか」&「なんとか有効に取り締まる方法はないものか」。

 とまあ、そういうことで、今回の取り締まりがスタートしたのだ。

 現実として、話の流れはこうなる。

◎ 1回目の違反。この際に、本人特定し、氏名、住所、連絡先ほかを、警察が把握。半券の切符(片方は本人、片方は警察)が切られることになる。

◎ その後、3年以内に、2回目の違反があった場合(または事故を起こした場合)、3時間の「安全講習」を受講しなければならない。

◎ この講習で自転車ルールを学び、最後に試験を課し、それをパスしなくてはならない。感想文(反省文?)の提出もある。

 なお、この「安全講習」の受講手数料は5,700円。これは必ず払わなくてはならない。

◎ 「安全講習」受講に応じない場合には、裁判所に呼び出されて略式起訴となる。この際、5万円以下の「罰金」が科される。


 とまあ、ここまでは「なるほど」である。誰にとっても悪いことはひとつもない。割を食うのは、逆走自転車や、ノーブレーキ・ピスト野郎、歩道上でドケドケ運転をする不逞のヤカラなど、路上の鼻つまみ者ばかりだ。ザマミロなのである。私は両手をあげて賛成であった。

はたして実効性があるのかどうか


 ところが、問題がないわけじゃない。

 最も困ったことなのは、1回目、2回目に切られる切符の色だ。「赤」なのである。深紅の切符が切られるのである。ま、実際は淡いピンク色なんだが、刑事処分のハードな切符が切られるのだ。

 あれ? そもそものポリシーとものすごく食い違いがあるのではないかと思われるだろう。その通りだ。ものすごく疑問。有り体にいって、現在の「病状」と「処方箋」の間に大きな齟齬がある。

 ご承知の通り、現在の自転車状況(特にママチャリ)はデタラメ放題だ。このデタラメ自転車状態の中、14項目全部を厳密に取り締まろうということになれば、7割や8割の自転車は、1枚目の切符(赤)が、即、切られるだろう。たとえば傘差し運転なんかでも「5万円以下の罰金」だ。雨の日など、ママチャリ族のほぼ半数は、即、赤切符、刑事処分、5万円以下の罰金、ということになる。そんなことが本当に可能なのかどうか。

 もうひとつ顕著な例をあげよう。歩道(自転車通行可能な自歩道)上の自転車には、すべて「時速7.5キロあたりをメドとした徐行運転」が義務づけられている(今回の場合、項目2)のだが、そんなことを守ってる人は、ほぼゼロだ。警察官の白チャリだって守ってない。それらにも全部、赤切符を切るおつもりか。日本全国に自転車は約8000万台ある。単純に言って警察官の数が2桁足りないよ。

 つまり、今回の改正法の施行、一言でいうと、こうなるのだ。

 「3年のウチに2度も赤切符を切られるような、極悪非道の自転車乗りには、安全講習を受けさせる。受けないとさらに罰金5万円」

 それ自体は悪くはない。

 だが、これまでと比較して、それほどの違いがあるのだろうか。というのか、実効性自体に大きな疑問符がついてくる。「大山鳴動して鼠なんとか」なんて言葉がゆらゆらとアタマに浮かんでくる。

 今後、どうなるだろう。

 最初のうちこそ「一罰百戒」なんてことで、警察は特に悪質な連中を捕まえると思う。その様子が新聞やテレビで報道される。でも、その一時期の後は?

 いつぞやの「駐車違反の取り締まり強化」のように、最初はぶち上げたけれど、後はグダグダに……、というのが、私の一番恐れるところなのだが、そうなるね、おそらく。残念なことではあるんだけど。その結果「あー、やっぱりチャリンコには無理だよ」とか「チャリは勝手気ままに乗るものさ」になってはもう目もあてられない。

 今回の話、もしかして「自転車にもルールがあるんだ」「悪くすると罰金だってある」というアナウンス効果はあるのかもしれない。だが、恐らくそれ以上にもそれ以下にもならないだろう。

 抜本的改善にはまだ時間がかかる。これが今回の改正法施行の現実だと思う。

ひきた・さとし 1966年宮崎県生まれ、東京大学文学部卒。毎日の通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」。学習院大学生涯学習センター非常勤講師。「ものぐさ自転車の悦楽」(マガジンハウス)「自転車の安全鉄則」「自転車生活の愉しみ」(朝日新聞社)など、自転車と都市交通に関する著書多数。