高橋学(立命館大環太平洋文明研究センター教授)
 
 現在、社会の中枢を担っている40代後半~60代前半が生まれ育ってきた時代というのは1960~75年以降である。まさに、日本は経済の高度成長期の真最中であった。

 この時代は、日本の社会を根本的に揺るがすような地震や台風などが極めて少なかった。1959年に発生した伊勢湾台風では、およそ5千人以上が犠牲となった。これ以降、1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)で約6500人の犠牲者が出るまで、比較的災害のない時代が続いたのである。

 1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万国博覧会などのイベントは、まさにその最中に開催されたのである。この時代、社会でも教育でも「災害」はまるで忘れられていた。

 21世紀になる直前に、その静穏期は終わりを告げた。地震、集中豪雨、台風などさまざまな災害を引き起すような自然現象が頻発するようになったのである。ところが、社会の中枢を担っている世代の人々は、このような現象について知らず、適切な対応をとることができていない。そして、「想定外」という言葉で責任を放棄しようとしている。

 さて、台風、集中豪雨、地震などの現象には「自然の揺らぎ」がある。観測時代に入ってから200人以上の犠牲者を出した地震に注目すると、次のようになる。

第1期】濃尾地震(1891年:7273人)、庄内地震(1894年:726人)、明治三陸地震(1896年:2万1959人)、陸羽地震(1896年:209人)
第2期】大正関東地震(関東大震災 1923年:14万2800人)、北但馬地震(1925年:428人)、北丹後地震(1927年:2925人)、北伊豆地震(1930年:272人)、昭和三陸地震(1933年:3064人)
第3期】鳥取地震(1940年:1083人)、昭和東南海地震(1944年:1223人)、三河地震(1945年:2306人)、昭和南海地震(1946年:1443人)、福井地震(1948年:3769人)
第4期】北海道西南沖地震(1993年:230人)、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災、1995年:6437人)
第5期】東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、2011年:約2万2千人)、熊本地震(2016年:273人)
※()内は発生年、行方不明者と死者数の合計で推計含む


 見ての通り、第3期と第4期の間の45年が空白となっている。
関東大震災で被災した東京・神田橋付近=1923年9月
関東大震災で被災した東京・神田橋付近=1923年9月
 1868年の明治維新の頃、日本の人口は約3400万人であった。それが現在は約1億2700万人になっている。約4倍である。しかも、その多くは大都市周辺に集中している。15世紀末~19世紀中葉の「小氷期」に人口が減少した東北地方の太平洋岸でも、気候の温暖化やコメの品種改良により人口が激増した。増えた人口の多くは東京などの大都市へ労働力として移動した。