柴山知也(早稲田大理工学術院教授)

 2004年のインド洋大津波、2011年の東日本大震災などを契機として、日本および世界の災害の予測技術は急速に進歩した。今では日本国内であれば、それぞれの地域でどのくらいの災害リスクがあるのかを具体的な被害金額で計算できるようになっている。

 一例を挙げれば、若いカップルが結婚後に新居の選択をする場合などに、利便性や価格と比較できるレベルで災害リスクを算定することが技術的に可能だ。

 具体的には、地震、津波、高潮・高波、集中豪雨、河川洪水、地盤の液状化、傾斜地の崩壊、火災、火山噴火など、自然災害の各事象について、生起確率、被害のレベルと広がりなどを、ある程度の精度で推定可能となっている。個々の事象についての被害予測金額と生起確率とを掛け合わせ、さらにそれらを足し合わせることによって総合的な災害評価が可能だ。

 こうした各種災害による、将来の損害金額の総計を算定する技術は、個人が将来にわたって安全に生活する場所を、地価や利便性による利得と比較しつつ合理的に選択するうえで大いに役立つ。もし今後、この技術が広く普及すれば、日常レベルでの合理的選択の積み重ねの結果として、人々の居住地域がより安全な場所に移っていくことになる。

 数十年の時と世代交代を経て、巨視的に見れば日本が「災害列島」と呼ばれる現状から徐々に脱却することも可能になると予想される。

 しかしながら、この予測技術はこれまでの自然災害の経験を蓄積していった上で創出されたものだ。ゆえに近年の新たな災害の傾向などは含まれていない。実際、これまで専門家も含めて誰も考えていなかった災害のメカニズムが、海外および日本国内の災害を通して、いくつも明らかになりつつある。

 まず海外の事例として、2018年9月のインドネシア・スラウェシ島のパル湾で起きた津波が挙げられる。この津波は、沿岸部での山腹崩壊、海底部での斜面崩壊が複雑に重なり合うことで、湾内に大きな津波が発生した。
津波被害にあったインドネシアのパル市(gettyimages)
2018年10月、津波被害にあったインドネシアのパル市(gettyimages)
 また、この災害は津波による被害のほか、液状化に起因する地盤の流動化で多くの住民が家屋とともに土砂に飲み込まれ、大きな被害を出した珍しいケースだ。全ての被害を合わせると、死者が2千人以上、行方不明者も1300人以上と沿岸域の住民に甚大な被害を出した。

 同じく2018年12月のインドネシア・スンダ海峡津波は、クラカタウ山が135年ぶりに大噴火して引き起こされた津波だった。この火山は1883年にも津波を伴う大噴火を起こしていたが、多くの地域住民がその事実と教訓を忘れていたために、死者が400人を超える大きな被害が出た。