日本国内でも、われわれがこれまでに経験したことがない災害が頻発している。例えば、2018年7月に発生した台風12号は、日本の太平洋岸を東から西に移動したことで小田原の海岸で高波被害が発生した。台風がこのコースを通るのは、記録に残っている限り1945年8月以来、実に73年ぶりであった。通常の台風は移動に伴い、その深刻さの情報は西から東に伝わる。しかし台風12号は最初に相模湾に来襲し、さらに西に進んだために台風への準備を整えるのが難しかった。

 また、同年8月の台風21号は、大阪湾で想定されている1961年の第2室戸台風と類似した経路をたどった。こちらは経験があったにもかかわらず、関西国際空港や芦屋市の埋め立て地など、第2室戸台風以降に建設された場所で浸水被害が発生した。これは空港管理会社や埋め立て地の住民にとって、これまでにない経験であり、適切な対応をとるのは難しかったといえよう。

 このように、ここ10年ほどで地球温暖化に伴う気候変動の影響で、日本列島に近づく台風の挙動も変わったと実感する。特に変化の特徴としては、2つの点を指摘できる。

 第1の変化は、日本列島周辺の海水面の水温が上昇し、台風が日本近海でも成長を続けることだ。かつて台風の勢力は、日本列島に接近・上陸すると弱まることが多かったが、近年では強い勢力をそのまま保ち、時にはかえって強く成長する台風も現れるようになった。

 第2の変化は台風の進路である。これまでのように、台風が日本列島に差し掛かると偏西風の作用で速度を上げて足早に東方向に立ち去る、ということが予測できなくなった。偏西風の位置が安定しないためである。気圧の配置によっては、日本列島近傍で迷走したり停滞したりする台風もある。

 2007年の台風9号では、相模灘付近で停滞した台風による高波で、海岸に沿って建設されている西湘バイパスの一部が崩壊した。こうした事例は、歴史的な経験の少ない、すなわち工学的に経験の蓄積がない事象による災害例が多く出現するようになってきたことを示すものである。

 今後も、われわれがまだ科学的に気づいていない、未経験の事象による災害が発生する可能性がある。災害に対応する科学が進展していても、住民や行政担当者も備えていなかった、想定とは違う災害が起こる可能性は依然として残っており、それが防災上の盲点になり得る。

 これに備えるためには、被害が想定を超えても人命を守るという観点からの余裕を持った災害対策が必要となる。例えば、現在の津波ハザードマップで浸水が想定されていない地域でも、近隣まで浸水する場合には少し広めに、避難が必要な地域の範囲を設定しておく。
2020年 2月 14日 高田松原津波復興祈念公園と東日本大震災津波伝承館=岩手県陸前高田市(古厩正樹撮影)
高田松原津波復興祈念公園と東日本大震災津波伝承館(中央)=2020年2月14日(古厩正樹撮影)
 また、がけ崩れの兆候が必ずしも明らかではない場合であっても、ささいな変化を敏感に捉えて、災害の潜在的可能性がありそうな場所はあらかじめ見当をつけていくことなどが考えられる。

 巨視的に見れば、災害予測技術は進歩し、中長期にわたる災害対策については、行為選択を合理的に行う下地が整備されつつある。一方で、われわれは災害予知が完全に可能なわけではないという前提に立ち、災害ポテンシャルをミクロな視点で意識しながら、未知の事象に対して用心深く備えておくことが肝要である。

 与えられた自然条件・社会条件の下、行政から与えられる防災知識に加えて、地域に生きる住民として未経験の事象を感じ取り、自ら有事の際の地域の守りを考える知恵が求められている。