小西寛子(声優、シンガーソングライター)
「坂道で大きな荷物を抱えて困っていたおじいさんを助けた5人の子供たち。ごほうびにもらった6枚のチョコレート、みんなで分けたら1枚残った。さあ、どうやって分けようか」。読者のみなさんも一緒に考えていただきたい。
①一番重い荷物を運んだA君に
②一番年上のB君に
③妹がいるCさんに
④チョコが大好きなD君に
⑤みんなで等分に
この設問は、東京都の各小中学校などで行っている「道徳授業地区公開講座」のワークショップで取り上げられたものだ。この講座は、主に保護者や地域の方々を対象として道徳授業を公開している。ワークショップなどを通じて意見交換を行い、学校・家庭・地域社会が一体となった道徳教育の充実を図るために、東京都教育委員会が平成10年度から実施している取り組みだ。
道徳の教科化については批判的な意見も多い中、小学校では平成30年度から、中学校では31年度から「特別の教科 道徳」として始まった。深刻なモラル崩壊に歯止めがかかる様子もなく「不寛容社会」と嘆かれる現代、目まぐるしく変化する予測不可能な社会の中で、子供たちにどのような教育が望まれ、どのような未来が託されているのだろうか。
冒頭の設問だが、みなさんはどれを選んだだろうか? 筆者は、どれも言い分としてアリだよなぁ〜と思いつつ、どれか1つ選べと言われたら、⑤の「みんなで等分」を選んだ。ワークショップの結果は、一番多かったのが⑤。数人が①、③が1人だった。その理由は以下の通りだ。
【一番多かった⑤と回答した理由】
・平等でよい
・経験上、子供たちが一番納得する(学校教諭の意見)
・みんなで分けたらおいしい
・みんな同じ気持ちで行動したから、みんなで分かちあう
【①と回答した理由】
・働いた人に相応の評価をすることで社会の仕組みが理解できる
・労働の大きさに応じて差をつけて評価すべき
・一番よく働いたA君にはもらう権利がある
【②と回答した理由】
・自分たちだけでなく、他の人のことも考えていてよい
どれも理由として、なるほどぉ〜と思う。もちろん、どれが正解というものはない。およそ40年前にこれらの道徳性を調査したのが、道徳性発達理論の提唱者で心理学者のローレンス・コールバーグで、興味深いことに、国によって選択傾向が違うという。
①を最も多く選ぶ国はアメリカ、②は韓国、⑤は北欧などの福祉国家だそうだ。なるほど、これまた概ね納得できる傾向である。アメリカは成果主義、韓国は儒教の影響、福祉国家はみんなで分け合う。うーむ、筆者はこの時点で、道徳教育の多難さにうなだれてしまった。
1975年生まれの筆者の時代の道徳といえば、善悪の判断や思いやりの心を育てるような物語を読んで、登場人物の気持ちを考えるという感じの授業だったと記憶している。では、「特別の教科」という冠がつけられた道徳科は、いったい今までの道徳と何が違うのだろうか。

公開授業を参観してみると、テーマとしては、人への思いやりや困難を乗り越える大切さなど、筆者の時代とは変わらない定番の内容だったが、低学年クラスでは、ちょっと変わった作業をしていた。
生徒に1枚ずつ紙が配られ、感想を書かせるのかと思いきや、紙には空白の吹き出しの付いたイラストが印刷されていて、登場人物になったつもりで気持ちをセリフにして書き出し、子供たちは活発に発表していた。高学年のクラスを覗いてみると、テーマにまつわるストーリーを自分たちの社会に置き換え、グループで議論し、出し合った意見をパネルにまとめ発表するという作業を目にした。