モンスターに変質


 それでもヘーゲル氏に対する発言は、朴槿惠大統領お得意の「告げ口外交」の内容を知るうえでも役に立つし、韓国人の発想、韓国官僚の忠誠心の在り方を学ぶうえでも参考になる。

 それぞれが“突っ込みどころ満載”の発言なのだが、領土(竹島)問題に関して言えば、その決定的な再発火点は、2012年8月の李明博大統領の竹島(独島)上陸だった。自分たちで火を付けたにもかかわらず、“加害者は日本”という認識なのだ。

 日本への刺激という点では、李明博氏がその数日後、「天皇に土下座させ……」とはしゃぎ回ったことのほうが強かった。が、前任大統領の言動については何も語っていない。ただただ「日本が一方的に悪い加害者」、逆に言えば「善良なる韓国は一方的被害者」という立場からの発言だ。

 「善良なる被害者」と社会から認知されるや、被害者はその関連分野では超法規的存在になる。何をしても許されるモンスターに変質するのだ(典型は沈没したセウォル号の遺族)。この国が「立派な条文を揃えた法律はあるが、法治国家ではなく情治国家」とされるのと同じようなことだろう。

 朴大統領の「告げ口外交」とは“韓国の常識は世界の常識”との思い込みの下で、「韓国は善良なる被害者」と国際社会に認知してもらうための努力と言えようか。

 韓国社会に限って見れば、「善良なる韓国民は一方的被害者」とする対日認識がすでに確立されている。だから、こと日本に対しては条約違反も国内法違反も、大体のところ“お咎めなし”になるわけだ。

外交慣例などくそ食らえ


 朴・ヘーゲル会談で「発表することで合意」した内容は、「対北に関する米韓協力合意」だけだったとされている。米国としては対北陣営内部の日韓不和、とりわけ朴槿惠大統領の対日敵愾心を表に出したくなかったのだろう。

 が、青瓦台の担当者はブリーフィングですべてを明らかにしたあと、「(大統領発言の内容が)とても良いと思ったので公開した」と述べたという(京郷新聞13年10月1日)。青瓦台のエリート官僚をして、“姫の素晴らしいご発言”があれば外交慣例などくそ食らえとばかり発表してしまうのだ。

 これこそが、韓国流の直属上司への忠誠心の発露だ。まさにゴマ摺りであり、「上司への告げ口」とともに韓国社会に蔓延している処世術だ。

 京郷新聞が「こうしたことは、海外のリーダーに韓国との協議を憚らせるように仕向け、率直な意見交換を成り立たなくする」との外交消息筋の発言を併せ伝えたことが、せめてもの救いだ。

 話は前後するが、慰安婦に関して「その方たちは花のように美しい青春を全て失い……」とする表現は、朴槿惠大統領の発言のなかにしばしば出てくる。

 あっちでもこっちでも慰安婦について語るなら、慰安婦自身の証言も含め様々な史料を漁っていて、多彩な事実の叙述や表現が出てきてもよさそうだが、韓国紙が伝えるところ「花のように美しい……」ばかり目立つ。

 インプットされる情報域が狭すぎるのではないのか。もしかしたら、特定の人物に依拠した耳学問ぐらいしかないのかもしれない。

 もしも強制連行されなかったなら、「花のように美しい青春」を謳歌できたはずと信じているとしたら、李王朝末期の庶民がまるで縄文時代から抜け出してきたかのような生活をしていたことや、「内鮮一体」の日本の投資でようやく食べられるようになった史実も知らないのだろう。

 朴槿惠大統領に限らず、韓国の与野党指導者たちも、慰安婦の証言録すら読んだことがないのかもしれない。読んでいたなら、そしてまともな史料と突き合わせていたなら、「ジープに乗せられ」といった証言のおかしさが分かる(日本軍にジープはなかった)。

 慰安婦問題を管轄する女性家族省のホームページでは、慰安婦と一緒にいる髪を伸ばした若者の写真が「日本兵」として紹介され、「慰安婦募集」と漢字で書かれたポスターが「強制連行の証拠」として掲載されていた。

 そういう知的レベルの国だ。その国の大統領の知識が、「その方たちは花のように美しい青春を全て失い……」くらいしかなかったとしても不思議はない。

 それにしても「21世紀にも紛争地域で女性に対する性的蹂躪が強行されていることに怒りを禁じえない」とは、どこの国のことを言っているのか(韓国も北朝鮮との間には休戦協定しかなく、「紛争地域」だ)。よもや、朴槿惠大統領は自分の国では売春が一大産業であり、同時に「韓国=売春婦輸出大国」である事実もご存知ないのだろうか。

「ギロチン処分」に滲む性格


 インプットされる情報域が狭ければ、それまでに得ていた“もっともな知識”と合致する新情報はたちまち消化される。きっと、報告書のなかにあった「外国人観光客の招致積極化」や「経済部門の規制廃止の必要性」といった建議は、たちまち朴大統領の血肉に転じたのだろう。

 観光に関しては、「金の卵を産むガチョウだ」(国民観光振興会議、14年2月3日)と、とても露骨な表現で述べている。自民党の二階俊博総務会長(全国観光業協会長)は、そうした“日本人ガチョウ”を韓国に送り込んでくれる人として今年3月、韓国観光公社から招待を受けたわけだ。

 規制については韓国産業界をがんじがらめにしているものであり、産業活性化の最大の足枷という考えを何度も表明している。

 規制廃止のための関係者会議も何度か開いている。そのたびに、ドキッとするような面白い発言が飛び出している。平場の会合での質問に対する回答や即座の指示は、事前のレクチャー資料があったとしても、朴槿惠氏個人の感覚に基づく部分が大きいと見てよかろう。

 「ブルドッグよりも珍島犬がよりいっそう、一度噛みつけば肉がちぎれるまで放さない。我々は珍島犬の精神で取り組まなければいけない」(国務調整室などの業務報告、14年2月6日)
 「もつれた糸を解く最も速くて確実な方法は何か……糸のもつれを切ってしまうことだ」(官民合同規制改革点検会議、14年9月3日)
 「副作用が心配で『できない』というのではなく、『副作用をどう賢く創意的に解決するか』を考えなければいけない。小さな副作用のためにだめだという方向に行けば、より大きな損失となる」(同)
 「規制の妥当性を直ちに検討し、雇用の創出や投資の障害となっているものはギロチンで一気に処分すべきだ」(閣議、14年11月25日)

 自信をもって打ち出した規制緩和が遅々として進まないことへの怒りと焦りがあるのだろうが、激しい性格が滲み出ているような発言に思える。